ブランドと技術の狭間──日本メーカーが直面する現実
マルイGLOCKから見えた“静かな変化”
近年、エアソフトガン業界では「実銃メーカーの正式ライセンス」という言葉が、以前にも増して重要な意味を持つようになってきました。北米や欧州を中心にエアソフト市場が世界規模で拡大し、実銃メーカー自身がエアソフトをブランド戦略の一部として捉えるようになったことが、その背景にあります。
こうした流れの中で、2024年秋から2025年にかけての東京マルイ製GLOCKシリーズを巡る動きは、業界内で少なからず注目を集めました。一時期、GLOCK関連製品のメーカー在庫がほぼゼロとなり、とくにG17 Gen5 MOSは再販までに時間を要したため、「商標やライセンスに関する問題が生じたのではないか」といった憶測も流れました。
しかし、東京マルイに確認してみると、同社の回答は明確で、一時的な再販の遅延はあくまで生産上の事情によるものであり、商標や著作権といった知的財産権の問題ではない、というものでした。この説明は、ハイパー道楽のイベント取材記事でも掲載したとおりです。
その後、G17 Gen5 MOSは2025年5月に再販され、さらに2026年1月にはG19 Gen5 MOSが新発売されたことから見ても、東京マルイがGLOCKシリーズの展開を中止、あるいは大幅に縮小する意図を持っているとは考えにくいでしょう。
一方で、製品の表現方法には変化が見られます。G17 Gen5 MOSの発売前・発売時には、Webサイトやパッケージに「GLOCK17 Gen5 MOS」というサブタイトル表記が用いられていましたが、現在のWebサイトや、G19 Gen5 MOSのパッケージでは「GLOCK」の名称が外されています。ただし、製品本体には従来どおりGLOCKのGロゴ刻印が施されています。
これは、商品名や外箱における『商標としての明確な表示』を避け、製品のリアリティを追求するための『模型としての再現』の範囲内に留めようとする、商標法上のリスクを最小化するための苦肉の策とも考えられます。
玩具と実銃は、商標の世界でどう線引きされてきたか
同時期、業界全体に目を向けると、実銃メーカーとの正式ライセンス契約を前面に押し出す動きが顕著になっています。2023年の台湾MOAでは、SRCがUMAREXとのGLOCK正式ライセンスのガスブローバックガンを発表し、日本代理店であるBATON Airsoftは、日本国内でも正式ライセンス品として販売することを告知しました。その際、「特定の他社製品を排除する意図はない」とのコメント ※1 が加えられたことは、少なくとも現時点では市場の整理よりも拡大を重視している姿勢を示すものと受け取ることができます。

このような状況を見ると、過去の事例としてしばしば引き合いに出される、1996~98年のウエスタン・アームズ(Western Arms)を巡る知的財産権訴訟を想起する人もいるかもしれません。当時、イタリアの銃器メーカーであるベレッタ社は、日本のトイガンメーカー各社に対し、商標の無断使用に関する警告を行っていました。ウエスタン・アームズは、ベレッタ商標を正式に使用していた国内メーカーであり、その立場から、他社による無断使用が自社の知的財産権を侵害しているとして訴訟を起こしています。
これらの裁判では、結果としてウエスタン・アームズ側の請求が認められないケースが多くありました。判決文 ※2 を読む限り、裁判所は、実銃とモデルガン・エアガンは殺傷能力の有無を含め、商品としての性質や用途、市場、取引実情が明確に異なる点を重視しています。
そのうえで、需要者が両者を同一の出所の商品として混同するおそれは低いと判断しています。つまり、実銃に用いられているメーカー名やロゴといった表示であっても、それが直ちに玩具銃分野において商標法や不正競争防止法上の保護対象となるとはいえない、という考え方が示されたのです。
もっとも、この判断は、90年代当時の市場環境や業界慣行を前提としたものであり、現在では実銃メーカー自らがエアソフト部門を設立し、ブランドを直接管理するケースが増えたため、この『混同しない』という理屈は法的に維持しづらくなっている点に注意が必要です。※3
ブランドが管理され、技術だけが拡散する時代
それから約30年が経過し、エアソフト市場は大きく様変わりしました。現在、市場規模が大きいのは北米や欧州であり、製造拠点としては台湾や中国が大きな存在感を持っています。日本の市場規模は相対的に小さいものの、エアソフトという文化や技術を生み出した「元祖」として、海外メーカーからのリスペクトはいまなお強い状況です。
東京マルイが確立したガスブローバック機構をはじめとする各種構造や設計思想は、海外製エアソフト製品にも大きな影響を与えています。互換性を前提とした設計や、同社製品を基準とする構造が当然のように採用されている状況は、もはや珍しいものではありません。
その一方で、東京マルイ自身は商標やライセンスといった問題に細心の注意を払わざるを得ない立場にあり、実銃メーカーの権利との折り合いに苦慮しています。自らが築き上げた技術や設計思想が、海外では自由に参照・模倣されながらも、ブランド表現においては制約を受ける――この対照的な構図は、現在のエアソフト業界が抱える、きわめて皮肉な現実を象徴しているといえるでしょう。
実銃メーカー側の姿勢も近年明確になってきました。エアソフトは、実銃を手に取れない層にとって「ブランドへの入り口」として重要な役割を持つため、ライセンスビジネスは合理的かつ収益性の高い事業として定着しています。とりわけGLOCK社は、玩具製品のカテゴリにおいてもGロゴを含む商標権を世界的に管理しており、自社ブランドの保護を徹底する構えを鮮明にしています。
さらに、こうしたライセンスのあり方は、必ずしも一方向ではありません。例えばH&K(ヘッケラー&コッホ)製品については、日本国内における玩具カテゴリのHKロゴ商標を、東京マルイが登録・保有しているケースがあります。
これにより、海外でH&Kの正式ライセンスを展開するUMAREX製品との間で、日本国内における権利の「ねじれ」や競合が生じるといった、複雑な構図も生まれています。
実銃メーカーが“競合”になる──SIGという例
実銃メーカーの関与の度合いが、エアソフト製品の表現に直接影響する例として、SIG(シグ)社の存在も挙げておく必要があるでしょう。
SIGはGLOCKとは異なり、「SIG AIR」ブランドを通じてエアソフト事業を自社主導で展開しています。これは、単なる商標ライセンスの供与ではなく、製品仕様や供給体制まで含めて実銃メーカーが厳格に管理しているケースです。
そのため、海外エアソフトメーカーであっても自由に「SIGブランドのエアソフト製品」を名乗れる例は限られており、実際には米軍制式モデルをモチーフとした別名義製品や、ロゴを排した形での展開を余儀なくされるケースも見られます。
SIG名義のエアソフト製品を展開することは、単なるライセンスの問題を超えて、SIG AIRという実銃メーカー自身のエアソフト事業と直接競合する構図を生みかねません。そのため、東京マルイのSIG系最新モデルでは、製品本体への刻印を含め、ブランド表現を抑制しているとされています。
さらに踏み込めば、SIGに関しては「ライセンスを取る/取らない」という議論自体が成立しにくい状況にある、という見方もあります。仮にSIG AIRの製品供給パートナーとなった場合、製品は同ブランドの一部として扱われ、エアソフトメーカー自身のブランド表現や主導権が大きく制限されるため、自社ブランドを前面に出した製品展開は現実的ではないからです。 ※4
この違いは、「商標管理が厳しいかどうか」という単純な問題ではなく、実銃メーカーがエアソフト市場にどこまで主体的に関与しているかという、ビジネス構造の差によって生じているものと考えることができます。
こうした事情を踏まえると、東京マルイはSIGに限らず、GLOCKを含む主要ブランドについても、コストや管理上の負担も考慮しつつ、あえて正式ライセンスを取得しないという選択を行っていると考えることができます。※5
判例では説明しきれない、いま起きている変化
こうした現在の環境を踏まえると、東京マルイの製品を巡る一連の動きは、過去の判例をなぞったものというよりも、変化する国際的な市場と距離を保ちつつ、日本国内の法制度や業界慣行の中で成立させるための、慎重なバランス調整の結果と見ることができます。パッケージ表記や刻印を抑制しながら、製品そのもののリアリティや完成度は維持するという姿勢は、その象徴ともいえるでしょう。
この問題は、「合法か違法か」「ライセンスがあるかないか」といった単純な二元論で語れるものではありません。エアソフトが世界的なブランドビジネスの一部となった現在、日本発のメーカーがどのような立ち位置を選び、どこまで折り合いをつけていくのか――その過程で生じる静かな変化を読み解くことこそが、いま進行中のエアソフト業界の姿を理解するための、重要な手がかりになるはずです。
注釈
※3 近年の意匠法改正により、デザインの保護期間が最長25年に延長され、関連意匠制度の拡充も進んでいます。これに伴い、実銃メーカーが外観形状を「銃」だけでなく「玩具」の区分でも意匠登録する例が増えています。例えば豊和工業の20式小銃は、両区分で意匠権が成立しており、ロゴや名称を伏せたとしても、その造形(シルエット)を無断で再現することは直接的な権利侵害となるリスクを孕んでいます。
※4 大手海外エアソフトメーカーにおいても、自社で開発した製品であっても、SIGなどの実銃ブランドをモデルアップする際には、ライセンスや商標上のリスクを回避するため、関連ブランドを用いて製品展開を行っています。
※5 すべての日本メーカーが同様の立場にあるわけではありません。例えばマルゼンはワルサーと正式ライセンス契約を結び、ブランドを前面に出した製品展開を行っています。KSCは、KWAが取得したベレッタのライセンスに基づき、PMXを国内で発売しています。
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