「本物と同じ発射機能」という表現と実態
― 樹脂製玩具銃の摘発事例から考える技術と認識

「本物と同じ発射機能」という表現と実態
― 樹脂製玩具銃の摘発事例から考える技術と認識

はじめに

中国製の樹脂製玩具銃が「真正拳銃」と鑑定され、警察により回収が進められているという報道が注目を集めています。
報道によっては「本物の銃と同じ発射機能」「実弾が撃てるおもちゃ拳銃」といった強い表現が用いられ、NHKの報道番組でも特集が組まれました。

警視庁Webサイトより これまでに把握されている玩具と称した真正拳銃

しかし、トイガンや銃の構造に一定の知識を持つ立場から見ると、これらの表現には技術的・概念的な混同が含まれているように感じられます。
本記事では、違法な製品が排除されるべきであるという前提を共有した上で、「何が問題で、何が誤解されやすいのか」を整理してみたいと思います。

日本のトイガンが築いてきた「実弾を撃たせない」設計思想

日本のトイガン、特にモデルガンは、世界的に見ても極めて特異な進化を遂げてきました。
その最大の特徴は、「外観の再現を許容される代わりに、実弾発射機能を構造的に排除する」設計思想にあります。

金属製モデルガンでは、

  • 素材の制限(硬度等):
    • 主要部分(フレーム、スライド、シリンダー、バレル)の素材は、実銃に用いられる鋼鉄などとは異なり、強度の低い亜鉛合金等に限定されています。
  • 構造の非互換性(完全閉塞・インサート):
    • 銃身の完全閉塞: バレル内に硬質材を鋳込み、銃口を完全に塞ぐ。
    • シリンダーインサート: 貫通を阻止し、実弾の装填を物理的に不可能にする。
    • 寸法設計: 薬室やシリンダー寸法を意図的に変更し、実弾が収まらないよう設計。
  • 外観上の識別(着色):
    • 銃身・機関部を含む外面のすべてを白色または黄色(金メッキ含む)に着色する義務があり、黒色は認められていません。

樹脂製モデルガンであっても、

  • バレルおよび薬室・シリンダー内への硬質インサートの鋳込み: 実弾や薬莢の装填を物理的に遮断。
  • 実弾が物理的に装填できない寸法設計: インサートを回避しても弾薬が成立しない設計。
  • 各パーツの非互換性: 実銃部品の流用を想定しない構造と素材選定。

これらは「撃てるかどうか以前に、撃てない構造であること」を重視した設計思想であり、日本のトイガン文化における安全性の根幹です。

エアソフトガンの場合 ―― 発射機構の根本的な非互換性

エアソフトガンはBB弾を発射するためのバレルを持ちますが、実弾の装填および雷管の発火を前提とした薬室や撃発機構は、構造上成立していません。

  • 実弾の装填・発火を前提とした薬室構造を持たない
  • 雷管を叩く撃針・撃発機構を持たない
  • 火薬燃焼による高圧ガスを前提としない

発射エネルギーはスプリング、圧縮空気、低圧ガスといった非燃焼エネルギーに限定され、 内部構造・材質ともに実銃とは互換性を持ちません。

また、日本国内で流通するエアソフトガンには、 発射エネルギー上限(0.98J以下)や、外観類似性に応じた素材規制など、 複数の安全規制が設けられています。

ICO 日本のエアソフトガンが「0.98J規制」になった理由

今回回収対象となった玩具銃の構造的問題

今回問題となった中国製の樹脂製玩具銃は、日本国内で長年にわたり積み重ねられてきたトイガンの安全設計思想や基準を満たしていない構造を有していました。

具体的には、

  • 銃身が薬室(弾倉部)まで直線的に貫通している
  • 撃針が雷管を直接打撃し得る形状となっている
  • 実弾や薬莢が物理的に装填可能な寸法で設計されている

といった点が確認されており、これらはいずれも実弾を使用する拳銃と共通する構造的特徴です。

玩具と称した真正拳銃の特徴 違法性のポイント

警察発表では「真正拳銃と同様の発射機能を有する」と表現されていますが、日本の銃刀法においては、「実際に発射できるか」や「安定した実射能力を有するか」といった実用性よりも、拳銃に該当する構造や機能を備えているかどうかが最初の判断基準となります。

また、警察発表によれば、科捜研において発射試験が実施され、実弾の発射に至ることが確認されたとされています。
ただし、使用された弾薬の仕様や試験時の条件などの詳細は公表されておらず、通常の市販状態での使用を前提とした評価とは区別して受け止める必要があります。

その一方で、これらの構造的要件と警察発表に基づく試験結果を総合すれば、今回の回収措置は、法制度上の判断として理解できます。

「本物の銃」という言葉が生む誤解

「本物の銃と同じ発射機能」「おもちゃの銃は“本物”だった」 といった表現は強い印象を与えますが、 銃に詳しくない視聴者・読者に対しては実態以上のイメージを与える恐れがあります。

技術的に見れば、今回のような樹脂製玩具銃が、そのままの状態で、実用的な実銃となるかどうかについては、慎重な見方が必要でしょう。
なぜなら、

  • 撃鉄・撃針のエネルギー不足
  • フレームや薬室の耐圧性不足
  • 銃身の強度・内面精度の不足
  • 適合する実弾の入手が極めて困難
  • 自家製弾薬を前提としなければ銃として成立しない

これらは「玩具銃の危険性」というより、銃および弾薬を一から製作する意思と能力を持つ個人の問題に近い領域です。

報道と安全、どちらも両立させるために

違法な玩具銃が流通していた事実は、決して軽視されるべきではありません。
法制度に基づき、危険性のあるものが適切に回収・是正されること自体は、社会の安全を維持するうえで重要です。

一方で、その危険性を伝える報道においては、「なぜ危険と判断されるのか」を構造的・事実ベースで説明する姿勢が求められます。
言葉の強さや表面的なイメージだけで不安を広げるのではなく、冷静な理解を促すための事実に基づいた情報発信が望まれるでしょう。

また、こうした報道を受け取る側においても、事案を「社会において実用的な実銃が蔓延しているかのような状況」と短絡的に取り違えることなく、日本の法制度や実態を踏まえて冷静に受け止める姿勢が重要です。

同時に、トイガンユーザーを含む愛好家の側においても、事案を感情的に受け止めるのではなく、法的・構造的な判断の前提を一度整理して捉えることが、冷静な理解につながるはずです。

報道、受け手、そして業界とユーザーのすべてが、それぞれの立場で冷静さと正確さを共有することが、不要な誤解や不安を生まないために不可欠だと言えるでしょう。

おわりに

今回の回収事例は、違法製品の問題であると同時に、「銃とは何か」「本物とは何か」という言葉が、どのような前提と文脈のもとで伝えられているのかを考えさせる出来事でもあります。

見出しや表現の強さだけに反応するのではなく、その背景にある構造や制度、技術的な前提を踏まえて読み解くこと。
そして、過度に不安を煽ることも、過度に矮小化することもなく、事実を事実として受け止める冷静さが、 伝える側にも、受け取る側にも求められているのではないでしょうか。

 

■参考サイト

警視庁:https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/kurashi/drug/kenju/modelgun.html

大阪府警:https://www.police.pref.osaka.lg.jp/jiken/110/14593.html

2026/01/28


■関連リンク

日本のエアソフトガンが「0.98J規制」になった理由 日本のエアソフトガンが「0.98J規制」になった理由

エアガン ジュール(J)計算ツール エアガン ジュール(J)計算ツール

CO2ガスガンの現状 CO2ガスガンの現状

アルミスライドの現状 アルミスライドの現状

ヒゲKOBA回顧録 トイガン規制 ヒゲKOBA回顧録 トイガン規制