MGC H&K P7シューマッハ カスタム

MGC H&K P7M13 シューマッハ カスタム

写真&解説 小堀ダイスケ

解説

そもそもドイツは精密射撃のさかんな国だ。エアライフル射撃、スモールボアライフル射撃、ピストル射撃などの競技には数多くの優秀な選手がおり、世界的にもトップレベルの射撃大国である。

前述の射撃競技はISSF(International Shooting Sport Federation)認定の国際標準スポーツだが、もちろん、それ以外の大口径ハンドガンの世界にも、ドイツには命中精度を追求した独特の銃が存在した。そのひとつがH&K P7シューマッハカスタムで、今回紹介するMGCのガスガンがトイガンとしては唯一の製品となる。

ベースとなったMGC H&K P7は、当時、一世を風靡したグロック17の流れをくむアフターシュート式ガスブローバックガンだ。ディティール面で若干甘さのあったグロックのイメージを払拭すべく、P7では凝りに凝った再現性がウリだった。最大の特徴であるスクイズコッカーが実銃通りスチールプレスで再現され、実際の機能自体はグリップセフティーだったものの、握りこむ際の「カクン」という独特の感触まで忠実に再現されていた。

しかし、肝心の実射性能となるとすでに時代遅れの感が否めず、アフターシュートゆえの特徴として、狙点よりも下に着弾するのも不評だったようだ。

MGCとしては、その弱点を克服する意味でも、カスタムパーツとして、高さのあるミレットタイプのリアサイトを搭載したかったのではないだろうか。本来ならフロントサイトもカスタムとすべきところを、低いノーマルのままとしたことからもそれがうかがえる。

また、寒さに弱いのも欠点だった。これは、複雑な形状のマガジンを実銃通りスチールプレスで再現したことにより、内部のガスタンクが小さくなってしまったからだ。マガジンを亜鉛合金の一体モノとすればかなり改善されたはずだが、それをしないのがMGCのプライドだったのかもしれない。当時はいかに複雑な工程を経て作られたか、ということばかりが前面に押し出され、リアルさを重視するガンファンにはもてはやされたものの、やはり実射性能が追いつかなければ販売数には結びつかないものだ。

目を引くスラリとしたコンペンセイターも、当然ながら命中精度の向上とは関係ない。姿かたちがどんどんリアルになる半面、実際の性能との乖離が目立ってしまうという残念な結果となった。

その後、P7はプレシュート化され、ハイパーブロウバックというネーミングで再投入された。だが時すでに遅く、WAマグナブローバックの波に飲み込まれてしまったのである。

サイドビュー 左
サイドビュー 右
アンドレアスシューマッハという、日本ではほとんど知られていなかったガンスミスが制作したカスタムということで、当時はかなり斬新なイメージのあった製品。グロックから受け継がれたアフターシュートが後期型でプレシュート仕様となり、ABS製のスライドが搭載された。ノーマルではズシリとした質感が売りだったが、作動性能向上のためにはやむを得なかったのだろう。

コンペンセイター マズル
コンペンセイター
スライドのデザインが延長されたコンペンセイター。このカスタムのもっとも特徴的な部分で、インナーバレル(サイクロンバレル)も延長されている。縦長形状のガスポートが開いているが、内部まではつながっていない。

リアサイト
ミレットタイプのリアサイト。1911系カスタムとボーマーサイトの組み合わせを見慣れたガンファンにはかなり新鮮だった。

エジェクションポート
エジェクションポートから見えるチャンバーにはスチールブルーの鉄板、斜めにへこんだダミーのエキストラクターとあいまって、外観のリアルさはさすがMGCといったところだ。

エジェクションポート
しかし、スライドを引いてもエジェクションポートは開かず、内部メカが顔を覗かせるだけ。初期のガスブローバックの宿命だ。

ハイパーブロウバック
プレシュート仕様改修後のハイパーブロウバックモデルなので、ピストンの径がかなり太くなっている。以前紹介したノーマルの写真と見くらべてみると面白い。

スクイズコッカー
厚い鉄板プレスの質感がリアルに再現されたスクイズコッカー。エアガンとしての機能はグリップセフティとスライドリリースだが、実銃同様、握りこんでから撃つという独特の操作が満喫できた。

マガジン
複雑な形状を実銃通りに再現したといわれるマガジン。外観は素晴らしいが、残念ながら冷えには弱かった。

専用のガンケース
トイガンのパッケージといえば紙箱と発泡スチロールが当たり前だったこの時代に、専用のガンケース入りというのはかなり豪華版だったといえる。

ハイパーブロウバック
これはハイパー道楽を、ではなかったハイパーブロウバックを意味するシール。

マニュアル
イラコバさん作と思われるマニュアルだが、MGC最盛期の頃と比較するとかなり遊び心が少なくなっているようにも感じる。manual.pdf (9.9MB)

DATA


発売年 1992年11月中旬 (P7M17)
1993年3月中旬 (シューマッハカスタム)
1993年7月中旬 (スーパーステンレスシルバーHW)
1994年4月中旬 (シューマッハカスタムABS ハイパーブロウバック)
発売時価格 ¥17,500 (P7M17)
¥19,800 (シューマッハカスタム)
¥15,500 (ブラックABSモデル)
¥19,000 (スーパーステンレスシルバーHW)
¥17,500 (シューマッハカスタムABS ハイパーブロウバック)
全長 実測 236mm
重量 実測 915g
バレル長 -mm
発射方式 リキッドチャージ式ガス
使用弾 6mmBB弾
装弾数 15発+1
平均初速 51.7m/s

撮影協力:サタデーナイトスペシャル

2021/12/05


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