JAC バトルマスター
写真&解説 YAS
解説
1985年――その年の幕開けとともに、エアガン界に革命が訪れた。
世界初の、ガスでBB弾を発射するフルオートガスガン「バトルマスター」がJACから登場したのだ。アサヒファイヤーアームズが開発したBV(Bullet Valve)式フルオートユニットを搭載し、パワーソースには当時スプレー缶に広く用いられていたフロンガス(CFC-12)を採用。その姿は、まるで未来兵器のようだった。
当時の主力といえば、6mmBB弾を使うカート式コッキングエアガンか、登場したばかりのケースレス式エアガン。そんな中、トリガーを引くだけで怒涛のフルオート連射ができる――バトルマスターの衝撃は凄まじく、ユーザーも業界も度肝を抜かれた。圧縮ガスで弾を飛ばすことに対して、不安を示す声もあがるほどだった。
しかしその不安をよそに、バトルマスターは大ヒットを記録。改良を重ねながら第二弾、第三弾のモデルアップが続き、やがてM16などの人気モデルが加わると、すでにサバゲーに欠かせない定番ウエポンとなっていった。
さらに同じ1985年には、WAのAR-7やMGCのM93Rといったセミオートガスガンも続々と発売され、市場は一気に熱気を帯びていく。まさにこの年は「ガスガン元年」――その幕開けを告げたのが、JACのバトルマスターだったのだ。

レシーバーはABS樹脂の削り出し。スタイルはオリジナルながら、ゲウィン・ブッシュマスターをイメージさせるアサルトピストルといった雰囲気だ。価格は38,800円と、当時の長物ガスガンの中でも、ずば抜けて高価だった。のちにJACはシリーズ第7弾としてブッシュマスターも発売している。
バトルマスターが登場した当時、JACはミリタリーショップにすぎず、トイガンメーカーとしてはまだ無名の存在だった。だが、このシリーズを皮切りに次々と新モデルを展開し、瞬く間に業界トップブランドへと成長していったのである。

刻印やセーフティレバーなどはなく、本体可動部はトリガーのみというシンプルさ。フルオートでBB弾を発射することのみに特化した最初期のガスガンだ。
BV式とは、まずBB弾がチャンバーに装填され、トリガーを引くとサブチャンバー後方にガス圧がかかる仕組みだ。するとサブチャンバーはBB弾を保持したまま、インナーバレルごと前方へと押し出される。やがて一定の圧力が溜まった瞬間、Oリングが膨らんで弾の保持が解放され、同時にガスが一気に流れ込むことでBB弾が発射される。発射後はガス圧が弱まることで、スプリングの力によりバレルとサブチャンバーが後退し、次のBB弾が装填される――この繰り返しによってフルオート射撃が実現する。

フラッシュハイダーは金属製で、この個体に装着されているものはポートが開いていないタイプだが、発売当時の広告にはロングバレルバージョンに付いているA1タイプのフラッシュハイダーが標準装備となっている。

1985年1月に発売された最初期モデルではショートバレルだったが、ロングバレルキットも発売された。
トリガーはロングモデルについているシルバーのものが初期型純正だろう。

フロント、リアサイトともに固定式。リアサイトは本体中央上部の筒状パーツにある溝を使用する。

マガジンは本体後部の穴にチューブ式マガジンを差し込んで装着する。
また、本体後部にはガス缶を取り付けるためのネジがある。

チューブ式マガジンは金属製で装弾数は30発。金色のローレット部を押し下げると内部のプランジャーが引っ込んでBB弾を装填できる。本体へ装着時にねじ込むとやはりプランジャーが解放されて弾が給弾される。マガジン単体重量は130g。

こちらのマガジンはアフターマーケット製のもの。

金属製トリガーはストレート引きタイプでロッドを介して本体後部のバルブを解放し、ユニットにガスを導く。下から見るとロッドとスプリングが見える。

フロンガス缶。当時はフロン12を使用していた。写真のガス缶は厳密には1985年当時のものではなく、ブースター用の500gサイズ。当初は280gのピースコン用ガス缶が使用されていた。中身はHFC134aに入れ替えられている。

当時のガスガンにはネジが切ってあり、これで本体やブースターに固定できた。またピースコンのノズルにはスリットが入っているのも特徴だ。

ガス缶を直接取り付けるとこのようなスタイルとなる。のちにガスホースによってパワーブースター等の外部ソースとなり、パワーソースもフロンガスだけでなく、圧縮空気を使用するエアータンクも使用された。
オーナー様から「壊れてもよいので撃ってみてください」とのことで、さっそくガス缶とマガジンをセットしてトリガーを引いてみた。ところがガス圧が不足していたのか、残念ながらBB弾はうまく飛ばなかった。なお当時の実測値によれば、初速は60m/s以下、発射サイクルは毎分700発程度だったという。
バトルマスターはJAC(渋谷と神戸にあった)をはじめ、むげん、FENロッキー、コンバットシステムズなどで販売された。
筆者自身も当時、JACのBV式ガスフルオートをいくつか所有し、サバゲーで愛用していた。初期モデルはまだ試行錯誤の段階にあり、構造もシンプルだったが、その分カスタムや改良の余地が大きく、ユーザーたちはそれぞれ工夫しながら使いこなしていた。当時はまだホップアップシステムが存在せず、威力を頼りに射程を伸ばすスタイルが主流で、80年代後半から90年代前半にかけては、より高圧なパワーソースや重量弾の使用といった方向へ発展していった。こうした流れの中でBV式フルオートガスガンはサバゲー黎明期を象徴する存在として、いまなお多くのユーザーの記憶に刻まれている。
DATA
| 発売年 | 1985年1月 |
| 発売時価格 | ¥38,800 本体 ¥2,800 予備マガジン ¥9,600 ロングバレルキット |
| 全長 | 実測 338mm (ショート・マガジン含まず) 実測 416mm (ロング・マガジン含まず) 実測 493mm (ショート・マガジン装着時) |
| 重量 | 実測 911g (ショート・マガジン含む) 実測 880g (ロング・マガジン含む) |
| バレル長 | -mm |
| 発射方式 | BV式 フロンガス |
| 使用弾 | 6mmBB弾 |
| 装弾数 | 30発 |
| 初速 | 60m/s以下、回転数700rpm ※当時のメーカー公称値 |
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