台湾軍にHIMARS配備 ― 機動力と精密火力で抑止力を高める
初の実戦配備と射撃試験
2025年7月、台湾陸軍は米国製「HIMARS(高機動ロケット砲システム)」を正式に部隊へ編入した。最初の11基はすでに到着済みで、残りは2026年までに順次引き渡される予定だ。台湾軍はすでに実弾射撃試験を完了しており、定例の大規模演習「漢光」でも機動展開の様子を公開した。


システムの特徴
HIMARS(ハイマース)は、6輪のトラックにロケット発射装置を搭載した多連装ロケットシステムだ。
1つの発射ポッドには、227mmロケット弾を6発装填できる。必要に応じて、長射程のATACMS戦術ミサイルを1発搭載することも可能だ。
射程はロケット弾の種類によって異なる。GMLRS(誘導型多連装ロケットシステム)でおよそ70〜150km、ATACMSでは最大で約300kmに達する。最近は、射程をさらに伸ばした新型のER-GMLRSも実用化されている。弾種や発射位置などの条件には左右されるが、台中や花蓮といった沿岸部からでも、中国福建省沿岸の主要拠点を射程に収められる計算だ。
GPS誘導による高い精度で、重要拠点をピンポイントで攻撃できる。また、発射後すぐに車両を移動させることで、敵の反撃から身を守る「撃ってすぐ撤退(shoot and scoot)」戦術にも向いている。

全長7m、全幅2.4m、全高3.2m、重量13.7tで、C-130やC-17輸送機で輸送可能。
米国がウクライナに供与した際の実績も示す通り、HIMARSは指揮所・補給拠点・防空レーダーといった「敵の神経中枢」を狙う用途に適している。台湾にとっては、侵攻の初期段階で人民解放軍の支援インフラを切断できる可能性を意味する。

訓練用のロケット弾を装填する様子
台湾での役割
台湾は従来、火力投射の主力を榴弾砲や対艦ミサイルに頼ってきた。HIMARSの導入により、より長距離で精密な打撃力が加わった。沿岸部から福建省の集結地や補給拠点を狙えるようになり、渡洋侵攻を試みる部隊に対する強力な牽制手段となる。
また、機動性の高さから隠蔽や分散配置がしやすく、生存性の向上にもつながる。演習では短時間での展開や移動が確認されており、島嶼防衛に特化した運用が進められている。

リフトアップしたHIMARS

支援用のFMTV A2トラックも導入されている。


近接防御用にルーフトップに懸架されたM249機関銃。口径5.56mm×45、コラプシブルストック装備。
限界と課題
HIMARSは強力だが、数が少なければ継戦能力に不安が残る。精密ロケットは大量消費型であり、補給が途絶すれば戦力は急速に低下する。また、発射位置を偵察衛星や無人機に捕捉されれば、長距離ミサイルで反撃されるリスクもある。さらに、ATACMSのような長射程弾の供給は政治的制約を受けやすく、常に使えるとは限らない。

ランチャー部は旋回・俯仰できる。

発射の瞬間。
中国とのバランスへの影響
人民解放軍は圧倒的なミサイル戦力と防空網を持つが、HIMARSの登場によって後方拠点の安全性は低下した。侵攻準備や兵站を狙い撃たれる可能性が高まり、作戦立案の難易度は上がっている。HIMARS自体が戦局を決定づける存在ではないが、侵攻側に追加のリスクとコストを強いる装備となっている。

HIMARSは台湾の長射程精密打撃能力を実質的に補強する装備である。配備数と弾薬備蓄、ISRとの連携が運用効果を左右する要素となる。装備の導入は台湾の防衛態勢に厚みを加え、対岸の作戦計画に追加のリスクを生じさせる。
台灣製 天劍二 対空ミサイル

こちらは天劍二(Sky Sword II / TC-2、通称「劍二」)対空ミサイル。設計・製造は国家の中山科学研究院。台湾は防空や対艦能力の強化を重視しており、天弓地対空ミサイルや雄風対艦ミサイルなど国産誘導兵器を積極的に整備する一方で、パトリオットPAC-3やハープーン対艦ミサイルなど米国製兵器も導入し、多層的な防衛網を築いている。

台湾軍は市民イベントにも姿を見せる。写真はプロ野球の試合会場で、台湾陸軍の輸送ヘリから隊員がファストロープ降下を披露している場面だ。

その後、始球式も行われた。
撮影・レポート 王清正
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