『ペリリュー ―楽園のゲルニカ―』
戦場を生きた“普通の若者”たち――終戦80年に伝えたい、平和への祈り
太平洋戦争の激戦地・ペリリュー島。
そこにいたのは、勇ましい英雄ではなく、私たちと同じ“普通の若者”だった。
アニメ映画『ペリリュー ―楽園のゲルニカ―』は、彼らがどんな思いで生き、何を残したのかを静かに描き出す。
終戦から80年。今を生きる私たちに、あの時代の声が届く。
忘れられた戦場「ペリリュー島」
1944年、パラオ諸島の小さな島・ペリリュー。
約1万人の日本兵が洞窟陣地に籠もり、4万人の米軍を相手におよそ2か月半にわたって戦った。
戦後、硫黄島や沖縄戦の陰に隠れ、この戦いが語られることは多くなかった。
そのため「忘れられた戦い」と呼ばれることもある。
だが島には、いまも多くの犠牲の記憶が残り、帰らぬ人々の遺骨が眠る。
本作は、その静かな島に刻まれた歴史をすくい上げ、観る者へ問いを投げかける。
普通の青年たちが、戦場にいた
主人公・田丸は漫画家志望の青年。彼の任務は「功績係」――戦死した仲間の最期を遺族に伝えるために記すことだった。
飢えと恐怖の中で、仲間の死を美しい言葉に置き換えることが時に必要とされる。
生きるために選ぶ嘘、守ろうとする尊厳。そこに描かれるのは兵器や戦術ではなく、人の声である。
終戦80年を生きる私たちへ
原作者は「普通の人たちが戦争をしていたことを伝えたかった」と語る。
本作は派手さを求めず、日常を奪われた若者たちの人生を丁寧に追うことで、平和の意味を改めて問いかける。
田丸と吉敷――過酷な戦場の中でも、二人は「生きて帰る」と誓い合った。
その約束は希望であり、人が人であることを支える最後の灯だった。
私たちの今の暮らしは、そうした無数の祈りと犠牲の上にあるという事実を、スクリーンを通して静かに伝える。

若い世代にこそ観てほしい一本

派手な戦闘ではなく、「生きること」と「死ぬこと」に静かに向き合った物語。
アニメーションの柔らかな表現が、登場人物たちの想いをまっすぐに届けてくれる。
彼らが生きた時代を知ることは、いまを生きる私たち自身を見つめることでもある。
未来をつくる若い世代にこそ、この作品が伝える“平和の意味”を感じてほしい。
あの日の声を、今に伝える
この映画を観終えたあと、心に残るのは戦いの激しさではなく、人の温もりだ。
80年前、確かに生きて笑い、夢を持っていた若者たちがいた。
その命の上に、今の私たちの平和がある。
忘れないこと。――それが、未来へと続く最初の一歩なのかもしれない。
作品情報
『ペリリュー -楽園のゲルニカ-』
2025年12月5日(金)全国公開
配給:東映
©武田一義・白泉社/2025「ペリリュー -楽園のゲルニカ-」製作委員会
©Kazuyoshi Suzuki,HAKUSENSHA/2025 PELELIU:GUERNICA OF PARADISE
原作:武田一義「ペリリュー -楽園のゲルニカ-」(白泉社・ヤングアニマルコミックス)
監督:久慈悟郎
脚本:西村ジュンジ・武田一義
音楽:川井憲次
制作:シンエイ動画 × 富嶽
田丸均(CV:板垣李光人)/ 吉敷佳助(CV:中村倫也)
公式サイト:https://peleliu-movie.jp/
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