[殺し屋っぽい] Gun & Story コンクール

ストーリー No.19

タイトル:二流の殺し屋

投稿者:山田太郎

ストーリー:

ニューヨークであの男――ジョン・ウィックがカムバックした。

その噂は瞬く間に地球の裏側、ここ日本にも届いた。
この業界であの男の名を知らぬ者は居ない。まさに生ける伝説。俺も同業者として憧れる……ちょっとしたファンだ。

――

 俺は仕事に失敗した事は無いが、ジョン程の腕は無い。ただ単に、失敗しそうな依頼は引き受けていないだけだ。
そして道具は慣れたモノを使う性分で、銃も未だに初仕事から変えた事が無い。ワルサー社が軍用に開発したヘーレス・ピストルのドイツ軍採用モデル、本家ワルサーが第二次大戦中の1941年に製造したものだ。
古い銃だがAFPBを装備していて安全に携帯出来るし、グリップデザインが良くて構えた時に自然に照準できる。また左利きの俺にとっては、排莢方向が左のP38は射撃中の集中力を切らさずに済む。
ボトム式のマガジンキャッチは古臭いとか言われるが、煩わしさなんてタクティカルリロードと変わらないしボタン式とは違って弾倉の脱落が起こりにくい上、リロード時にも空の弾倉を仕事場に残す事も無い。
要するにこの仕事をこなす上で、心配しなくて済む拳銃なんだ。

「山田様、御依頼の酒樽(バレル)です。良い宴をお楽しみ下さい」
「ありがとう」

 ソムリエから受け取った2つの銃身はチョークが仕込んであって、片方は消音器一体構造だ。同じ拳銃を使っていてもライフリングからアシが付かないように、いつもこうして入換えている。だが当然ながら9mmの銃身にチョークを入れると9mmパラベラム弾は使えない。
内径は.30口径になっていて、使うのは7.65mmパラベラム弾。こいつも古い設計だがホットロードすればトカレフ弾並みの性能が出るし、拳銃弾にしては弾道の低伸性が良くて思い通りに当たる弾薬だ。勿論チョークをフィッティングしたソムリエの腕もあるが70m以内のボディを外す気がしない。まぁ、そんな遠くの相手を狙うと最初から分かっていればライフルを使うんだが……。

――

 最初に言ったように、俺はジョン程の腕は無い。それは下調べにも言えた事で……たまに今回のように自分には手に負えないような状況に陥る事がある。
今回もシンプルに標的の出向く先に待ち伏せ、いつものように複数発の銃弾をボディに射込んで、動きを止めたら頭を撃ち抜く……それだけだと思ったのだが、依頼に成功はしたものの標的の取引相手にしつこく追われる羽目になっちまった。死んだ相手の復讐をする程のお得意様だったってのか?こんな状況、ジョンならどう切り抜ける?
 コンチネンタルホテルまではまだ少し遠い……俺は路地裏に身を隠し、消音器一体の銃身から通常の銃身に交換して弾倉もサブソニック弾から強装弾を装填したものに入換えてから通りを伺う。
連中は訓練されているようで、単独行動する事なく追って来る……俺は外した銃身を逆手に持ち手前の奴の拳銃に引っ掛けて引っ張り込むと、そいつを盾にしながら他の奴に強装弾を射込む。
 銃身を大きく露出しているP38のスライドは軽く、チョークを入れた銃身はヘヴィーバレルと同じだ。強装弾を装填しても、反動はあまり苦にはならない。近距離から3人の追手の胴体と頭に1発ずつ御見舞いしてやると、最初に引っ張り込んだ奴に抵抗を受けて壁に叩き付けられ、そいつはナイフを抜いた。
俺はそいつの脛を蹴り、銃身でナイフを受け止めつつP38の銃口を押し付けて引き金を引く。

 消音器は壊れちまったが、こうして何とか追手を振り切った俺は、コンチネンタルホテルの助けを借りてどうにか日本に戻る事が出来た。

――

 そして自宅のPCには、新たな依頼が入っていた。ニューヨークのコンチネンタルホテルから?

photo

“契約依頼……ジョン・ウィック 賞金14億米ドル”

 !?……俺がしょぼい仕事を受けてる間に何があったんだジョン?!

 まぁ、失敗する仕事は引き受けないのが俺の信条だ。俺は到底あんたを狙える腕じゃないし、野次馬しにニューヨークへ行く馬鹿でも無い。

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2019/09/29

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