
10式戦車の開発と試作車
文: 一戸 崇雄
本稿では10式戦車の概要、開発および試作車について解説する。なお、本稿の「開発」と「試作車」の部分は「軍事研究誌2011年6月号別冊 10式戦車と次世代大型戦闘車」からの抜粋である。別冊では、本稿にて解説する内容以外に、「主砲と新弾薬(10式APFSDS弾)の威力」、「モジュール型装甲の適用方式」、「砲手席と車長席のレイアウト」等、より詳細な解説を行っているので、本稿を読んで興味を持った方は、是非とも読んでほしい。
10式戦車の概要
10式戦車は、2010年に制式化された陸上自衛隊の最新鋭戦車である。まず「10式」の読み方であるが、「ヒトマルシキ」が正しい。「ジュッシキ」や「イチマルシキ」は正しくないので、その点には注意が必要だ。
10式戦車は、退役の進む74式戦車の代替することを目的に開発された。現役の90式戦車の量産を継続し、74式の代替とする案も検討されたであろうが、90式は、74式より10トン以上も重く、本州以南での運用性(とりわけ戦略的機動性)には難があった。このため10式には、74式と同等の運用性をもち、戦闘能力は90式と同等以上という性能がもとめられた。
この要求を達成するために、10式は、モジュール型装甲等による「拡張性」、最新技術の適用による「軽量化」と「情報化(C4I機能)」、初期導入コストだけでなく運用期間全体にかかるコストを管理する「LCC管理」という、4つのコンセプトを重視して開発が進められた。
モジュール型装甲とは、簡単に言えば、交換が容易な装甲である。想定される脅威に合わせて付け替えることができる他、高性能な装甲が開発された場合にも、交換が容易である。このため、「拡張性」や「LCC(ライフサイクルコスト)」という観点からも優れている。また90式では、道路交通法上の制約から、砲塔と車体を分離して輸送しなければならなかったが、10式は、モジュール型装甲を分離すれば輸送できるため、運用性も向上した。
「軽量化」については、90式よりも、さらに進んだ素材技術と設計技術により、約1割の軽量化を達成した。軽量化は、運用性(戦略的機動性)の向上にも繋がっている。
「情報化(C4I機能)」については、C4I機能として「基幹連隊指揮統制システム」および「小隊レベルでのデータ交換および表示機能」の装備と、照準装置のデジタル化が新しい。
以上の結果、10式は、従来からの国産戦車のみならず、諸外国の新鋭戦車と比較しても、高性能な戦車となった。以下、10式の開発と試作車の特徴を見ていこう。
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10式戦車 |
90式戦車 |
74式戦車 |
|
乗員 |
3名 |
3名 |
4名 |
重量 |
44t |
50t |
38t |
全長 |
9.42m |
9.80m |
9.41m |
全幅 |
3.24m |
3.40m |
3.18m |
全高 |
2.30m |
2.30m |
2.25m |
武装 |
44口径 120mm滑空砲×1 12.7mm 重機関銃M2×1 74式車載7.62mm機関銃×1 |
44口径 120mm滑空砲×1 12.7mm 重機関銃M2×1 74式車載7.62mm機関銃×1 |
51口径 105mmライフル砲×1 12.7mm 重機関銃M2×1 74式車載7.62mm機関銃×1 |
装甲 |
複合装甲+モジュール装甲 | 複合装甲 | 被弾径始型鋳造砲塔 |
エンジン |
水冷4ストロークV型8気筒 ターボチャージャー・ディーゼル |
水冷2ストロークV型10気筒 ターボチャージャー・ディーゼル |
空冷2ストロークV型10気筒 ターボチャージャー・ディーゼル |
最大出力 |
1200ps/2300rpm | 1500ps/2400rpm | 720ps/2200rpm |
懸架装置 |
油気圧式 | 油気圧・トーションバー式 | 油気圧式 |
最高速度 |
70km/h | 70km/h | 53km/h |
10式戦車の開発
10式戦車の開発は、防衛庁の技術研究本部(TRDI)主導のもと、三菱重工以下多数の企業が協力し進められた。10式戦車の開発スケジュールを表1に示す。
表1 10式戦車の開発スケジュール

まず、1996年から2000年にかけて「将来火砲・弾薬の研究」という呼称で、戦車砲や徹甲弾の開発が進められた。本研究で試作された砲を図1に示す。

図1 将来火砲・弾薬研究の試作砲。砲身基部および排煙器の形状は、90式戦車の120mm滑腔砲(独ラインメタルW&M社開発)と酷似しており、同砲を流用したものであろう。一方、砲身先端には、多孔式の砲口制退器が付いており、その性能試験のための写真と推測される。防衛庁技術研究本部パンフレット2010,P7より抜粋
それと平行する形で、1998年から2000年にかけて「将来車両装置の研究」という呼称で、新戦車用の各種装置の研究が行われた。
図2: 車両用電子装置(ベトロニクス)を試験するためのプラットフォーム(テストベッド)防衛庁技術研究本部パンフレット2010,P7より抜粋その後、TTB車体には、新型エンジン及び無段階自動変速操向機(Hydro-Mechanical Transmission)等の試作走行システムや、電子光学(EO: Electro-Optics)装置等を搭載した試験砲塔を組み合わせた試験用プラットフォームとなった。その写真を図3に示す。
図3:試作走行システムや、電子光学(EO: Electro-Optics)装置が組み込まれた将来車両装置の試験車両(Propulsion and Electro-Optics system for Future Tank)防衛庁技術研究本部パンフレット2010,P7より抜粋以上の研究結果を踏まえ、2002年から10式戦車の試作と試験が開始された。未確認の情報であるが、2004年から開始された試作(その3)において、2004年9月に砲塔試験が、同年10月に車体試験が、同年11月に砲塔と車体を結合して、東千歳にて試験が行われた。この車両が、10式戦車の最初の試作車(車体番号99-0214)であったと推測される。また2005年から開始された試作(その4)でも、別の試作車が製造され、メーカーの三菱重工にて試験が実施されていたらしい。また、同じころ、これらの試作車両と90式戦車3両で「小隊ネットワーク試験」が実施されたとの情報もある。
2006年から開始される、試作(その5)では、4両の試作車が納入された。この4両が後に公開される、試作1号車から4号車に当たるものである。こう書くと試作車の数は、試作(その3)の1両、(その4)の1両、(その5)の4両の合計6両あったような計算になるが、試作(その5)の4両の内の2両は、試作(その3)と(その4)の車両を改造流用して再度納入された可能性もあり、試作車の数は、はっきりしない。
試作(その5)では、2006年1月に試作1号車が、2008年1月に同2号車が、同年4月に同3号車が納入された。試作車は、4号車まで作られたが、4号車の完成時期は不明である。なお、各試作車の詳細については後述する。
試作車の最初の公開(報道公開)は、2008年2月13日に神奈川県相模原市にある技術研究本部の陸上装備研究所にて行われた。公開された車両は、同年1月に完成したばかりの試作2号車であった。
図4: 登坂試験中の試作車。砲塔側面のモジュールや砲塔後部の雑具ラックがついていない、クリアな状態の写真である。砲塔後部の車長用照準潜望鏡の後ろには、試験装置のラックが付けられている。 防衛庁技術研究本部パンフレット2010,P26より抜粋そして2010年に10式戦車として制式化された。同年、富士学校・富士駐屯地開設56周年記念行事(通称:富士学校祭)を皮切りに、富士総合火力演習、武器学校・土浦駐屯地開設58周年記念行事(通称:武器学校祭)、第47回中央観閲式にて試作車が公開された。


図5: 射撃試験中の10式試作車。射撃試験中の試作車。車体番号の下2桁が「37」と読めることから、試作1号車(車体番号:99-0237)と推測される。防衛庁技術研究本部パンフレット2010,P7およびP27より抜粋
10式戦車の試作車
10式戦車の試作車は、試験用プラットフォーム(テストべッド)を除き、すくなくとも4両が製作されたことが判明している。試作車の一覧表を表2に示す。
表2 10式戦車の試作車一覧
試作0号車? |
試作1号車 |
試作2号車 |
試作3号車 |
試作4号車 |
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車体番号 |
99-0214 |
99-0237 |
99-0238 |
99-0239 |
99-0240 |
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タイプ |
通常 |
通常 |
通常 |
ドーザー |
地雷処理ローラー |
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製造年月 |
不明 |
2006年1月 |
2008年1月 |
2008年4月 |
不明 |
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部品番号 |
車体 |
不明 |
E4500-A2000 |
E4500-B2000 |
E4500-C2000 |
不明 |
砲塔 |
不明 |
E4500-A0000 |
E4500-B0000 |
E4500-C0000 |
不明 |
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所属 |
不明 |
富士学校
機甲科 |
武器学校 |
富士学校
機甲科 |
技術研究本部 |
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公開 |
技術研究本部の機関評価報告書に写真掲載 | 2010年7月11日 富士学校祭 |
2008年2月13日 技術研究本部・陸上装備研究所 |
2010年8月27日 総合火力演習 |
技術研究本部ホームページに写真掲載 | |
備考 |
戦車回収車に改修しテスト中 | |||||
試作1~3号車は、一般公開または報道公開されており、車体左側面後部に設置された名盤から一定の情報を確認できる。一例として2010年8月27日の総合火力演習にて撮影した試作3号車の名盤を図6に示す。

図6:2010年8月27日の総合火力演習にて一般公開された試作3号車の名盤。3号車であること、部品番号、製造時期が判る。
名盤は2枚が設置されており、左が車体、右が砲塔のためのものと推測される。名盤を見ると、3号車であること、部品番号、機器識別番号、取得番号、製造番号、製造時期、製造者が記載されていることが判る。試作0号車と4号車は公開されておらず、名盤が確認できていない。また、試作0号車という呼称は、防衛庁から制式に発表されたものでは無く、筆者が便宜的に付けた呼称であることに留意してほしい(別に正式な呼称がある可能性がある)。

図7:テスト中の試作0号車の写真。ヘッドライトの形状が他の試作車と異なる。 技術研究本部の研究開発に係る機関評価報告書(平成22年8月,技術研究本部機関評価委員会作成)のP28より抜粋
試作1号車

図8:2010年7月11日に開催された富士学校・富士駐屯地開設56周年記念行事(通称:富士学校祭)で、試作3号車ともに一般公開された試作1号車。
第47回中央観閲式に展示された試作1号車




砲塔を上から。4つの丸い穴は76mm発煙弾の発射口。

車体前部を上から。操縦士に聞いた話だが、トランスミッションはオートマで、バイクのようなハンドルにアクセルスロットがあり、手首の回転で速度調節するそうだ。エアコンはついていないとのこと。夏は熱そうだ。

10式戦車の砲塔後部。砲塔の4隅には全周走査可能なセンサーが取り付けられている。
砲塔後部中央の円筒形のアンテナは射撃管制に使用する風向センサー。

車体中央部にはバックビューモニターを装備。

10式戦車の側面とキャタピラ部分。ステルス性向上のためゴム製のスカートを履いている。
砲塔右前部のレーザー検知センサー。
12.7mm 重機関銃M2を車載する。
車長用の照準潜望鏡。試作2号車

図9:2008年2月13日に技術研究本部・陸上装備研究所で報道公開された試作2号車。防衛省 技術研究本部ホームページより抜粋。
試作3号車

図10:2010年8月27日の総合火力演習で一般公開された試作3号車。車体前部にドーザーブレードが設置されているのが特徴。また、車長用ハッチや12.7mm重機関銃の架台の形状も異なっている。

2010年7月の富士学校にてグランドを疾走する試作3号車。

2010年8月の東富士で開催された総合火力演習で展示された試作3号車。

車体前面の砲塔下に取り付けられた暗視機能付ビデオカメラ。

砲塔上の右側には車長用照準潜望鏡がある。その横に見える円筒状の筒は風向センサー。

右の写真、砲身根元の照準用レーザー発信器、さらにその後が照準潜望鏡。
試作4号車

図11:技術研究本部のホームページに掲載された試作4号車の写真。車体前面下部に地雷処理ローラーの取り付け部が設置されている点が最大の特徴。また砲塔側面のモジュールが外されており、それを固定するための基部らしきもの見える。防衛庁技術研究本部ホームページより抜粋
■一戸 崇雄 筆者略歴
戦車好きが高じて、2000年1月13日よりWeb Site「大砲と装甲の研究」を立ち上げ、戦車の砲と装甲(終末弾道学)についての研究をライフワークとする。グランドパワー誌(ガリレオ出版)、軍事研究誌(ジャパン・ミリタリー・レビュー)、コクピット・イズム(イカロス出版)等に寄稿多数。最近は、ゴルフにはまっているが、ゴルフの弾道学研究は遅々として進まない。軍事研究別冊 10式戦車と次世代大型戦闘車 オフィシャルサイト
関連レビュー
平成22年度 観閲式 (10式戦車の展示あり)




