トイガン史 1963 ~ 1993 - あるガンマニアの追憶 -

トイガン史 1963 ~ 1993 - あるガンマニアの追憶 -

文 出二夢カズヤ
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第8回 1990~1993年 電動ガンの登場、モデルガンの転機

トイガン業界全体での年間出荷数が400万挺を超えるという、空前のエアガンブームの中で迎えた1990年。技術の進歩はとどまるところを知らず、タナカワークスのベレッタM1934や、ポイントのワルサーPPKといった中型拳銃のガスガンが登場。このサイズでもブローバック化が可能なのかと、我々を大いに驚かせてくれた。


タナカガスブローバックシリーズ第2弾として登場したベレッタM1934は、1980年台初頭に発売された、ウェスタンアームズ製のモデルガン以来の製品化で、短いスライドが勢い良く動作する様子に、オールドファンは喜んだものだった。

ただ、この時期に発売されていたブローバックガスガンは快調に動作するものの、パワーと命中精度は今ひとつ、というものが多かった。そのため、撃って遊ぶというよりは、動かして楽しむ、モデルガンに近い存在だったと言えるだろう。

サバイバルゲームの上陸と共に始まったエアガンブームではあるが、上述のブローバックガスガンのように、様々な性格を持った製品が次々に発売されたことで、多様な楽しみ方が可能となり、ユーザー層をさらに拡大して行った。その勢いは、全盛期のモデルガン人気を凌駕するほどに凄まじいものだった。

しかし、主役の座を明け渡したとは言え、モデルガンというジャンルが消滅したわけではない。各メーカーは開発の方向性を『さらなるリアルさの追求』にシフトし、新たな挑戦を始めていたのだ。

既にコクサイからは、同社史上最も再現度の高い金属製モデルガンのリボルバーが多数リリースされ、人気を博していたが、マルシン工業もこの年、完全新規設計になる金属製モデルガン、ルガーP08シリーズを発売する。それは、エアガンに夢中になっていた我々ガンマニアの目を覚ますような、渾身の最高傑作だった。

ゲーリングルガー
購入当時、実家の廊下に置いて撮影したゲーリングルガー。コンバットマガジンのライター時代に、少ない原稿料を叩いて予約購入した思い出深い1挺で、未だに素手で触ったことが無い。金属製モデルガンの最高峰と言える製品だろう。

中でも、ほぼ全面に精緻な彫刻が施されたゲーリングルガーは、もはやモデルガンの域を超えた芸術品とも言える美しさで、素手で触ることさえ躊躇われたものだ。

モデルガンの魅力に改めて気付かされた1990年。当時25歳の私はフリーライター兼エディターとして、某出版社でエアガン本の制作に携わっていたのだが、ある日の編集部に、東京マルイから一通の封書が届いた。

中には同社製品のカタログと、次期新製品を告知する数枚のチラシが入っていたのだが、そのチラシには、世界初の電動ガンを開発中というキャッチコピーと共に、モーターとギヤでピストンをコッキングする機構の概念図が描かれていたのだ。

世界初の電動ガン
メカボックスの内部構造を惜しげもなく見せていることに驚かされる当時の広告だが、モーターとギヤでピストンをコッキングするという、そのまったく新しい概念の真価に気付くことが出来たエアガンユーザーは、決して多くなかった。

あのチラシを残しておけば、どれだけ価値のある資料になったかと、悔やんでも悔やみきれないところだが、それもそのはず。当時の私を始め、編集部のスタッフ全員が、「こんな仕組みでまともなパワーが出るわけないでしょ」と、この世紀の発明にさほどの興味を抱かなかったのだ。己の見識の無さが悲しいばかりである。

東京マルイFA-MAS 5.56-F1
プレス向けに配布された資料に、「構想10年」といったコピーが書かれていたような記憶があるのだが、Ver.1メカボックスを搭載したマルイFA-MASが、発売から27年目となる今も現行商品として製造、販売されている事実は、その言葉を見事に裏付けている。

そして1991年4月26日、世界初の電動ガン、東京マルイFA-MAS 5.56-F1は発売の日を迎えた。この電動ガンと言う発明が、後に世界を席巻することを予見出来た者が、いったいどれだけいただろうか。

私自身、この革命的製品の真価に気付くことが出来ず、実際に現物を触ったのは、発売後すぐに購入した仲間がサバゲーに持って来た時だった。

果たして、皆で撃たせてもらったマルイ電動FA-MASは、パワー、飛距離とも力強さに欠けており、当時のゲームに投入するには少々頼りない印象だった。もっとも、比較対象がエアタンク直結のBV式ガスガンなのだから、これは当然の話しである。

また、撃つたびに響くメカボックスの作動音がオモチャっぽさを強調するようで、ガンマニアとしては少々受け入れ難いものがあった。まったく、若いくせに頭が固くて困ったものだ。

そんな頑ななマニア心を揺さぶられる衝撃が、同年6月に幕張メッセで開催された、東京おもちゃショー会場で待っていた。かのMGCが満を持して発表した、世界初のリキッドチャージマガジン式ブローバックガスガン、グロック17の登場である。

MGC グロック17
ブローバックガスガンとしては後発だったMGCグロックだったが、リキッドチャージマガジンをを複数持つことで、気化効率の低下によるパワーダウンが避けられるという大きなアドバンテージで、他社製品を突き放す人気を獲得した。大ヒットした映画「ダイハード2」劇中、悪役たちが使っていたことで一躍有名になったグロック17をいち早く製品化したところにも、MGC小林氏の上手さがあった。写真のモデルは、スライドのグロックマークが削り取られた上から、MGCと打刻されている。おそらく権利関係の問題が生じたのだろう。グリップ側面のマークも消されている徹底ぶりだ。

トイガンメーカー合同ブースの一角に置かれたアクリルケースの中で、自動的にトリガーを引く装置により、淡々とブローバックを繰り返すグロックの姿を見た私は、文字通りその場に釘付けとなった。

トリガーが引かれた瞬間、弾けるように後退するスライドの俊敏さ。台座に固定されていて尚、銃全体を震わすリコイルの強さ。故障する様子など微塵も感じさせず、快調に動き続ける(開発者の小林太三氏によれば、三日間の会期中ずっと動いていたとのこと)信頼性の高さ。それらすべてが、これ以上は無いほどの新鮮な驚きに満ちていた。

さらに驚いたのは、一般販売された実際の製品が、ブローバックガスガンとして過去最高の初速と、充分な命中精度をも実現していたことである。それはまさに、トイガンの理想そのものであった。
後に50万挺を超える売り上げを記録したというのも、至極当然の結果と言えるだろう。

そして、MGCグロック発売から2年が経った1993年。独自の路線を歩んでいたウエスタンアームズ(以下、WA)が、マグナブローバックという新しいシステムを搭載したガスガン、ベレッタM92Fを発売した。

ある時、9月の終わり頃だっただろうか、WAベレッタを手に入れたという友人と一緒に、屋外でシューティングを楽しんでいたのだが、やや低めの外気温の中、動作が不安定になる私のMGCグロックに対し、ガンガン快調なブローバックを見せるWAベレッタの雄姿に、掌の中のグロックが急激に頼りなく思えてしまったことを、昨日の出来事の様に思い出す。

東京マルイの電動ガンがそうだったように、WAのマグナブローバックは、ガスガンの進化を一足飛びに推し進める革新的なシステムであった。

電動ガンとマグナブローバックの登場により、トイガン業界がますます面白くなって行くというこの頃、私はある事情により、鉄砲業界から身を引いていた。

無論、トイガンが嫌いになったわけではなく、業界に残った仲間から、その後の状況をそれとなく聞いてはいた。かのMGCの廃業を知った時などは、肉親を亡くしたような哀しみを覚えたものだ。

紆余曲折を経て鉄砲趣味を再開した時、初めて手にしたトイガンは東京マルイのグロック17Cだったが、かつてのMGCグロックをあらゆる点で凌駕するクオリティの高さは驚愕のひと言だった。

この業界に舞い戻った今、振り返って思うに、ただのガンマニアだった自分が、サバイバルゲームの上陸とほぼ同時にトイガン業界に関わり始めたこと。そして、エアガンが進化の頂点へと上り詰めていく過程に仕事として付き合えたことは、実に素晴らしい体験だった。

事情により一時離れていたとはいえ、私の人生とトイガンは、切っても切れないものなのだと、改めて強く思う。

ルパン三世のワルサーP38に憧れた6歳の子供は、53歳という年齢になったが、その中身は何ひとつ変わっていない。

そしてそれは、この項を最後まで読んでくださった貴方も、同じなのではないだろうか。

資料協力:MACジャパン、東京マルイ、FOLIAGE GREEN ときがわ

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小林太三 (こばやし たぞう) 出二夢カズヤ (でにむ かずや)

1965年6月、埼玉県生まれ。物心ついた時からの鉄砲好き。高校時代に月刊コンバットマガジンの初代編集長と知り合ったのをきっかけに、1985年に比出無カズヤとして、同誌にてライターデビュー。以来1990年代初頭まで、トイガン業界の裏と表を渡り歩く。
一時的な引退の後、2012年に業界復帰。約5年のGunsmith BATON在籍を経て、現在は八王子Easy SHOOOOOTING! 勤務。自称日本一のUZIフリーク。

ブログ UZI SIX MILLIMETER
http://uzi9mm.militaryblog.jp/


2018/05/29


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