ガスガン用パワーソースの現状と課題

ガスガン用パワーソースの現状と課題

サバイバルゲームやトイガン愛好者の間で人気の高いガスブローバックガン(GBB)。その性能と実射感を支えるのが「ガス」というパワーソースだ。現在、日本国内のガスガン用パワーソースとして主に使用されているのは「HFC-134a」「HFC-152a」「CO2(圧縮二酸化炭素)」などがある。それぞれに利点と課題があり、使用するユーザーやメーカーの立場によって選択が分かれている。

HFC-134a:長年の定番だが規制の影響も

フロンガスの一種であるHFC-134aは、長年にわたり日本国内で標準的に用いられてきたパワーソースだ。特に東京マルイ製品においては、このHFC-134aが事実上の標準ガスとされており、多くの純正マガジンもこのガス圧に最適化されている。

しかし、HFC-134aは地球温暖化係数(GWP=1430)が高く、代替フロンとしての環境負荷が懸念されており、今後は国内法や国際協定(モントリオール議定書・キガリ改正)によって供給や流通が制限される可能性がある。

実際、HFC-134aの生産量は国から制限を受けており、今後10年間で供給量が減少する見通しだ。

日本国内では、オゾン層保護法に基づき、HFC-134aを含む代替フロンの製造・輸入量が段階的に規制されている。2019年の法改正により、削減スケジュールが決定され、製造・輸入量には上限が設けられている。2024年には基準年(2011~2013年の平均)比で40%削減、2029年には70%削減(大幅削減フェーズ)、最終目標は2036年に85%削減(実質的にほぼ全廃レベル)となっている。

国際的には、モントリオール議定書のキガリ改正によってHFC-134aは規制対象となっている。キガリ改正は、地球温暖化に影響を与えるHFCの生産と消費を段階的に削減することを目的としており、日本もこの議定書を締結している。これらの国内外の規制により、今後HFC-134aの供給量は着実に減少していくと見込まれ、価格の上昇や流通の不安定化が予想され、ユーザーや販売店にとっては入手が難しくなる可能性がある。

HFC-152a:低GWPで環境に配慮、LayLaxも展開

代替として注目されているのがHFC-152a(1,1-ジフルオロエタン)だ。HFC-134aよりわずか低圧でありながらも実用に耐える性能を持ち、ブローバックユニット構造やバルブの種類により初速値がわずかに上昇するという報告もある。 ※初速値は個々のガスガン製品で変動する場合がある。

可燃性であるため室内使用時は換気の必要性があり、火気への注意が必要だ。GWPは124〜140とされるため、環境配慮型パワーソースとして期待されているものの、キガリ改正ではHFC-152aも対象に含まれているため、長期的な削減目標には含まれる。

パーツメーカーのLayLax(ライラクス)は独自ブランドの「ハイバレットガス」を展開しており、同社のガスガン製品やカスタムパーツとの相性に配慮した実績がある。

東京マルイの代替ガス「ノンフロン・ガンパワー」

東京マルイは、環境負荷の低減を目的として、「ノンフロン・ガンパワー」を2017年に発売した。このガスは、HFO-1234zeとLPGの混合ガスで構成され、地球温暖化係数(GWP)がわずか1と非常に低い。

ノンフロン・ガンパワーは、従来のHFC-134aと比較して作動性や弾速が平均10%前後低下し、可燃性であるため室内使用時は換気の必要性があり、火気への注意が必要だ。価格は300g缶で約1,980円(税込)であり、HFC-134aよりも高価である。

現在のところ、ノンフロン・ガンパワーの普及は限定的であるが、HFC-134aの供給制限や価格上昇に伴い、今後の東京マルイの主力パワーソースとなる可能性がある。

CO2:高出力・安定性に優れるが課題も

CO2カートリッジ式ガスは、気温に左右されにくい安定した出力と高圧力が魅力で、海外では以前から主流のパワーソースである。特に冬季や寒冷地での使用において安定したブローバック性能と射撃サイクルを実現できるため、国内でも採用が進んでいる。

国内では、STGA(全日本トイガン安全協会)やJASG(日本エアースポーツガン振興協同組合)に加盟するメーカーがCO2製品の展開に積極的であり、ハンドガンや長物ガスブローバックでもCO2仕様が登場している。

一方で、ASGK(日本遊戯銃協同組合)はCO2導入に慎重な姿勢をとっており、同組合に属する東京マルイをはじめとするメーカーでは、現在もCO2製品はリリースされていない。

CO2は高圧力ゆえのリスク管理や構造強度の確保、マガジンの耐久性、マガジン互換による初速オーバー、ボンベ使いきりという運用面といった課題も存在しており、団体やメーカーごとの安全基準や設計思想により導入の温度差が見られる。

【参考記事】

ICO CO2ガスガンの現状

ICO CO2ガスガンの可能性

産業界全体で注目される代替ガス

産業界全体では、環境規制の強化に伴い、HFO-1234zeやHFC-152aなどの代替ガスが注目されている。これらのガスは、従来のHFC-134aと比較して地球温暖化係数(GWP)が低く、環境への影響が少ないとされる。

また、自動車業界を中心に広く採用が進んでいるHFO-1234yfも、有力な次世代冷媒のひとつとして位置づけられている。GWPは約4と極めて低く、HFC-134aと近い圧力特性を持つが、ガスガン用途での採用実績はない。その理由としては、高価格帯にあることや、A2L(弱可燃性ガス)に分類される安全面での配慮が必要である点が挙げられる。エアコン用の冷媒には回収義務があるが、ガスガンはそのまま大気に放出してしまうため、使用量は少なくても問題視されやすい。

海外製ガス、圧縮空気

海外製のガスガン用GREEN GASと呼ばれるガスはリキッドチャージ用で、その成分はC3H8(プロパン)、C4H10(ブタン)などの可燃性混合ガスとなり、日本国内で販売されるサンプロジェクト製のグリーンガス( CO2 74g/15g)とは異なる。圧力は数種類あり、一般的なものは気温25度で圧力12kg/cm2程度と法定初速の超過リスクが高いため、日本国内では限定的に流通している。混同、誤用には注意が必要だ。

エアータンク等に圧縮空気を充填して使用するという方法もエアガン業界では1990年代からあるが、コンプレッサーによる再充填や、タンクの可搬性といった運用面から現在では普及は限定的。

> サンプロジェクト グリーンガス レギュレーターのレビュー

今後の展望

環境規制の強化により、HFC-134aの使用継続は難しくなる可能性が高い。一方で、HFC-152aやCO2といった代替パワーソースが選択肢として広がる中、ユーザーとメーカーの双方が製品特性と規制環境を正しく理解した上での選択が求められる時代になっている。

今後もガスブローバックの魅力を最大限に引き出すため、パワーソースの進化とともに、製品設計や安全性確保への取り組みに注目が集まるだろう。

項目 HFC-134a HFC-152a ノンフロン・ガンパワー HFO-1234yf
化学名 1,1,1,2-テトラフルオロエタン (CF3-CH2F) 1,1-ジフルオロエタン (CH3CHF2) HFO-1234ze (CF3CH=CHF) + LPG(液化石油ガス)混合物 2,3,3,3-テトラフルオロプロペン (CF3CF=CH2)
GWP (地球温暖化係数) 約1430 約124〜140(IPCC第6次報告) 約1(東京マルイ発表データ) 約4(IPCC第6次報告)
可燃性 不燃(A1) 可燃(A2) 可燃 可燃(A2L)
圧力特性 中圧、約5.6気圧(20℃) 低圧、約3.8〜4.0気圧(20℃) 低圧〜中圧、約3〜5気圧 中圧、約3.6〜4.5気圧(20℃)
使用例・採用状況 リキッドチャージ製品の標準ガス LayLax「ハイバレットガス」などで採用 東京マルイが代替ガスとして展開中 自動車エアコンで多用、トイガン用途は未採用
参考価格 400gで2200円 460gで1980円 300gで2178円 200gで5500円程度
環境規制の影響 強く削減対象、規制強化中 削減対象だが緩やか、長期監視必要 ほぼ規制対象外(現在の国際規制では除外) 規制対象外だが将来動向に注意
課題 環境規制による流通制限と法規制強化 長期的な規制リスク、可燃性の安全管理 安定性・性能調整、コスト高、可燃性取り扱い注意 高コスト、ガスガンでの安全性検証不足、採用例ほぼなし

※価格は2025年5月時点のもの。価格は時期や在庫によって大きく変動します。

2025/05/19