撃って、見せて、魅せる:FPSゲームと銃火器表現の進化
レポート: Kilroy was here
進化するディテール、変化する視点
近年エンタメ作品で定期的に話題になる"作りこみ"。直近ではロックスター・ゲームズの新作「グランド・セフト・オート VI」のトレイラーが突如公開され、節々に映る狂気的とまで言える作りこみの数々に様々なゲームメディア、インフルエンサーが反応を示しており、銃火器描写においても過去の作品と比べ造形のリアルさや、悪名高い「グロックスイッチ」の登場が一部で取り上げられるなどしていました。



(公式サイトのプロモーション用スクリーンショットと2ndPVより出展:https://www.rockstargames.com/VI )
このようなビデオゲームの"細部へのこだわり(Attention to Detail)"をまとめた動画や、登場するすべての銃のモーションをまとめた「ALL WEAPONS」、あるいは「Everything wrong about ○○」などの誤った描写を指摘する動画を見たことはないでしょうか。

いつからこのような"作りこみ"が注目されるようになったのか、今回は比較的身近で様々な銃が登場するFPS作品に絞り、この流れが生まれた歴史を振り返ってみようと思います。
FPSゲームにおける銃火器描写の変遷
FPS(First Peason Shooter)の歴史は古く、1973年発表の「Maze War」などが起源とされていますが、"マップを歩き回り、画面に映る銃や魔法を使って敵を倒す"というゲームスタイルが確立されたのは1991年、id Software発表の「Cataconb 3-D」でした。翌年1992年に同社製「Wolfenstein 3D」、
1993年の「DOOM」で爆発的に普及したこのジャンルは、当初は3DCG技術が発展途上であったこともあり、当時としては革新的だったとはいえ、どうしても細部への作りこみにリソースは割けず、銃の描写といえばマズルフラッシュとショットガンのポンプアクション程度のものでした。

[*DOOM2のスーパーショットガンの伝説的なリロードモーション。出典 : https://www.pcgamer.com/an-ode-to-the-shotgun/]
その後1990年代後半に発売された「Quake」「Unreal」「Half-Life」の3作品で、現代のFPSの基礎が固められました。しかし、この当時はグラフィック、敵の挙動などゲームそのもののリアリティが求められた時期で、最初期の作品に比べれば格段に作りこまれてはいたものの、やはり世界そのものへの作りこみがメインで、銃火器描写はそれほど作りこまれるものではありませんでした。
本格的に銃火器の描写に力が入れられ始めたのは2000年代に入ってからのことです。2000年代に入り、家庭用ゲーム機の3Dグラフィック能力も格段と上がると、FPSは当時まだマイナーであったPCゲームから家庭向けコンシューマーゲームに主戦場を移していきました。2002年「Battlefield 1942(以下BF)」、2003年「CALL of DUTY(以下CoD)」など、現代に続いていくAAAタイトルが続々と生まれていきました。
3DCG技術がある程度成熟していたこと、題材として第二次世界大戦など史実をベースとした作品が多かったこともあり、このころより"正確な描写"がある程度求められるようになっていきました。ゲーム機の性能面等の縛りの中、複雑な手などの動きも作れるようになったことで実際に弾倉の脱着、装填動作などを行うリロード動作などが多く実装されました。
とはいえ、マガジンキャッチの操作など、部品単位での正確性は作品によってピンキリで、マガジンキャッチに触らずに弾倉の取り外しなどを行う作品は多くありました。
しかし2007年、FPS並びにゲーム史に名を残す名作が登場します。
銃火器描写の転換期「Call of Duty 4:Modern Warfare」

[出典: https://store.steampowered.com/app/7940/Call_of_Duty_4_Modern_Warfare_2007/]
「Call of Duty4:Modern Warfare」は、2007年に発売された伝説的な作品です。これまでのミリタリー路線のFPSでは第二次世界大戦が舞台とされることが多かった中で、家庭用大型タイトルで"現代の対テロ戦"を舞台としたこと。また当時の世界情勢で世界的に"対テロ戦争"が注目されている中で発売された本作は、そのテーマだけでなく、細かい作りこみにも力が入れられました。
今日の感覚ではチープに見えてしまう作品ではありますが、銃火器描写に絞ってみると多少の荒はあるものの「マガジンキャッチ、ボルトリリースといった各ボタン、レバーの操作」「マガジンを実際に腹部のポーチから取り出しているように見える」などのプレイヤーキャラクターの所作が作りこまれていました。
[COD 4: Modern Warfare - ALL WEAPONS Showcase]
以降の作品では現代戦が取り上げられることが増え、またキャンペーン/ストーリーモードのストーリー性、また銃火器に関する描写に力が入れられるようになり、多数の実銃や、テクニックが取り上げられることも増えていきました。作品によっては、実際の銃火器メーカーとタイアップし、実名、刻印入りで作中に登場するなど大きな盛り上がりを見せていきます。
その後も技術の進歩により3Dモデルの作りこみが細かくなるなどし、"リアリティ"はさらに向上していくことになります。しかし前述のタイアップなどの取り組みはのちのゲーム業界全体に決して小さくない影を落とすことになり、ゲームで"実銃"が登場することは避けられるようになりました。「CoD」「BF」などの作品は権利問題の発生しない/発生しにくい近未来を舞台とした架空戦記や第一次、第二次世界大戦に舞台を移していくこととなります。
しかし、それまでに培われた銃火器描写のノウハウ、インターネットの進歩による資料入手の容易性などが重なり、大戦期の銃特有の特徴的なメカニズムの再現や、近未来設定を生かした当時注目されていた技術の落とし込みなど、リアリティの追及は様々な方向で行われていました。
革命「Call of Duty:Modern Warfare(2019)」

[ 出展:https://www.callofduty.com/ja/modernwarfare ]
FPSゲームに近未来と世界大戦が蔓延するようになっていた2010年代後半、Activision / Infinity Wardは衝撃的な作品を発表しました。
「Call of Duty : Modern Warfare」。前述の「CoD4:MW」と同じ「Modern Warfare(現代戦)」をタイトルに持つ本作は、リブート(再始動)作として作成され、かつて行われた"細部への作りこみ"を現代基準で新たに行うことで、FPSゲームにおける銃火器描写のステージを大きく引き上げました。
現代のグラフィックで描画される"実銃(権利回避のためのアレンジあり)"たち。そしてそれらがタクティカルギアメーカー「T.REX ARMS」の設立者 ルーカス・ボトキン氏をモーションアクターとして起用し作成された各種モーションでプレイ可能。

(2025年にRAID-Xe IR レーザーのテストを行う製品評価セッションに参加するボトキン氏 引用元 : https://lucasbotkin.com/about )
このモーションはそれまでの作品ではあまり取り上げられることのなかった実際のオペレーター、シューターの行う所作が多く取り入れられており、所謂"タクティカルリロード"がほぼすべての銃に取り入れられていました。
Modern Warfareでのリロードモーション一部抜粋。マガジンを二つ持つリロードは以前からあったが、今作ではほとんどの銃がこの手法を用いている。
(引用元 : https://youtu.be/8R3LWHHMI5c?si=5NDsuhuHZy87vCdq )
また、その銃を扱ううえで操作する部品がすべて可動し、プレイヤーキャラクターの手は実際にマガジンキャッチボタンを押し、マガジンの挿入時にもマガジンキャッチが稼働。ボルトキャッチやスライドストップは稼働し、実際にスライドとかみ合っていることが見える、セミオートの銃で射撃ボタンを長押しし離すと、ディスコネクターが外れトリガーのリセットされる音が聞こえる。同様にオープンボルトの銃やダブルアクションの銃では射撃ボタンの押下から実際に弾が発射されるまでのわずかな遅延の再現、発射の直前にボルトの前進音、ハンマーの可動が行われるなど、まさに狂気ともいえる作りこみがここには書ききれないほど多数行われ、それに気が付いたガンマニアがそれら作りこみをまとめた動画を投稿。瞬く間に拡散され、一気に話題を呼びました。

(Kimber TLE RLⅡ撃ち切り時のスクリーンショット。スライドストップに注目)
これらの作りこみと、非常に現代的かつリアルな取り扱い方が行われた銃火器描写は注目され、リロードモーションをまとめた動画が多く投稿されました。前述の"作りこみ"が注目されるようになったのはこのころになります。(おおよそ2020年ごろ)
[Call of Duty Modern Warfare - All Weapons Showcase ]
「CoD:MW(2019)」以前に存在した拘った作品たち
さて、ここまで「CoD:MW(2019)」の作りこみについて熱弁しましたが、それ以前にも銃火器描写やミリタリー描写にこだわった作品はある程度存在していました。ここでは一部の作品を抜粋し、取り上げていきます。
■Medal of Honor:Warfighter

(出展:https://www.ea.com/ja-jp)
BFシリーズ、CoDシリーズにならぶFPSゲームシリーズの一つとも称された「Medal of Honor」シリーズ15作目(VRなどを除く作品では執筆時点で最新作)のWarfighterは、2012年に発売されました。実際のSpecial Mission Unit (SMU)の隊員をコンサルタントとして起用、様々な銃火器/ギアメーカーやラリー・ヴィッカース氏とのタイアップなどで話題を呼びました。
2012年時点でゲーム内に登場するM4がSOPMOD BLOCK2仕様であったり、水中からの浮上時にボルトをわずかに開放することで水抜きを行う描写など、今見ても見劣りしないディティールがちりばめられています。ゲームとしての評価は残念ながら賛否両論となり、またマルチプレイヤーのサービスも2023年に終了してしまいましたが、シングルプレイは引き続きプレイ可能なため、プレイ環境をお持ちの方はプレイしてみてはいかがでしょうか。
■Call of Duty:Ghosts

(出展:https://store.steampowered.com/app/209160/Call_of_Duty_Ghosts/)
Modern Wardare(MW)、Black Ops(BO)のCoD2大シリーズ、そのMWシリーズが完結し、制作会社のInfinity Wardが2013年に新たに送りだしたタイトルがこの「Ghosts」です。CoD4:MWを始まりとする第一次現代戦ブームの末期に発売されたタイトルであり、2040年代を舞台とし、所謂"M4A1"や、"AK-47"が全く登場しないといった作品ですが、その代わりに登場する銃火器のチョイスが輝く作品です。
当時発表されて間もないAAC ハニーバジャーや、MSBS Grot、またウクライナのVeprライフル(ロシアの同名ライフル/ショットガンとは無関係)、Metal Storm MAULなど非常にユニークな銃が数多く登場しているほか、
いくつかの銃では実際にマガジンキャッチなどの可動が確認できるなど、当時としては1段上の作りこみをしていました。非常に続編が待たれる作品ですが、現状続編に関する発表はありません。
その後の推移 - 結局、かっこよければいい
ここまで、FPSというジャンルの簡単な歴史と、その中で培われた銃火器描写の進化を大まかに取り上げてきました。「CoD:MW(2019)」以降、この"タクティカル"はトレンドとなり、影響を受けた多くの作品が"タクティカル"な所作を多く採用し、発売されてきました。
中には影響を強く受けてしまい、冷戦期や大戦期を舞台としつつタクティカルリロードを行ってしまう作品も多くありました。
また、「CoD:MW(2019)」の直接の続編「Modern WarfareⅡ」が2022年に発売されると、銃火器の造形は大きくアレンジされつつも前作以上の所作の作りこみ、銃火器の機構の再現が話題となり、その中でも"失敗"が大きく取り上げられました。

(Modern WarfareⅡでのリロードモーションにおける"失敗"一部抜粋。入れそこなったり、自重落下しなかったりなど、失敗の種類は多彩だ。 引用元 : https://www.youtube.com/@Varga_Andras_Kristof
装弾数の増える"拡張マガジン"といったアタッチメントを装着した際のデメリットとして存在している「リロード時間の増加」を、単なるリロードアニメーションの再生速度を落とすのではなく、「形状の異なるマガジンや、使い勝手の悪い大型マガジンの挿入時などに正確にマグウェルに持っていくことができずに入れそこなってしまう」、「マガジンのすり合わせが悪く自重落下や固定が行われず手で補助を行う」などの所作を追加した別のモーションを再生することで表現する。といった手法が取り入れられ、この"失敗"はトレンドとなり、今度は様々な作品がマガジンを入れそこなうようになりました。
直近では、「いかに自然かつリアルなモーションを取り入れるか」と、「いかにカッコよさを突き詰め、スタイリッシュな動作を作るか」の大きく分けて二つに分類される作品がメインとなっています。実銃や実銃ライクな架空銃が登場する作品に絞れば、前者は主にリアルさに重きを置いた現代戦や過去の戦争、紛争を舞台にした「READY or NOT」、「Escape From Tarcov」「Insurgencyシリーズ」といった作品。後者は競技性に重きを置いた「Iron Sight」や、「FragPunk」といった作品や、リアルさよりもカジュアルさを重視した作品で多く見られています。
[Ready or Not | 1.0 Release | All Weapons Showcase | 4K ]
[FragPunk - All Weapons]
また、全体的な傾向としては、「最低限のリアルさは確保しつつ、ある程度スタイルに寄せたモーション」が作成されることが多くあります。「CoD:BO6」や、「The Finals」「Delta Force : Hawk Ops」などが代表例でしょうか。余談ですが、銃火器の登場しない「Dying Light 2 Stay Human」にてダウンロードコンテンツにて本作唯一の銃としてMP5が追加された際、その描写があまりにクオリティが低いと取り上げられ、数週間後にモーションを修正したアップデートが配信される といった出来事がありました。もともと銃火器の登場せず、銃火器描写のリアリティがそれほど重視されていない作品ですらその"リアリティ"が求められるほどになった、ということなのかもしれません。
終わりに
「CoD:MW2019」以降、ゲームにおける銃火器描写の“リアルさ”の下限が一気に引き上げられ、以後のトレンドは大きく変化し続けています。
インターネットに膨大な情報が出回る現代において、ゲームの銃火器表現は情報の入口としても、純粋なエンターテインメントとしても広く受け入れられており、この描写が今後どう進化していくのかは、引き続き注目すべきテーマです。
普段FPSを遊ぶ方も、あまり遊ばない方も、その中の銃火器描写に注目してみてはいかがでしょうか。
編集協力:ミリドー!
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Kilroy was here 2003年 北海道生まれ。 ミリタリーコンテンツクリエイターグループ「MILIDO! / ミリドー!」所属。 3DアニメーションソフトMMDを使用したアニメーション動画を作成しています。M14/M1Aのボルトキャッチのような見逃されがちな機構をフィーチャリングしている作品を探すことに情熱を注いでいます。最近はロングリコイルの銃を動かすのがマイブーム。 X: https://x.com/Kilroy_is_here_ |
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MILIDO!/ミリドー! 「20年後の日本のミリタリー業界のために」を共通理念に、Youtubeを中心とするクリエイターが集まるミリタリーコンテンツクリエイターグループ。 所属クリエイターチャンネル総登録者数40万人突破。 銃器を中心に多様なジャンルを横断しながら、「知識」「体験」「文化」としてのミリタリーを次世代へつなぐことを目的に活動しています。 X: https://x.com/Milido_Official |
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