SAS英陸軍特殊部隊─世界最強のエリート部隊


『SAS英陸軍特殊部隊─世界最強のエリート部隊』

L・ネヴィル著
床井雅美監訳
茂木作太郎訳

四六判172ページ(オールカラー)
定価1800円+税込

 

1980年の「ニムロッド作戦」(ロンドンのイラン大使館襲撃占拠事件)と、その2年後のフォークランド紛争の活躍で、英陸軍特殊部隊SASは世界で最も知られる特殊部隊となり、いまも各国特殊部隊のリーダー的な存在といえます。
本書は、特殊作戦部隊の世界的権威であるリー・ネヴィル氏がSAS連隊の組織とフォークランド戦争終結時から今日までの数々の特殊作戦を最新情報をもとに解説したものです。
ここには熾烈なIRA(アイルランド共和軍)との戦い、スペシャル・プロジェクト(9.11同時多発テロと7.7ロンドン同時爆破事件以降に重要性が再認識された対テロ戦)、第1次湾岸戦争、バルカン半島、西アフリカ、イラク、アフガニスタンなど各地での特殊作戦と、SASの使用する武器が章ごとに説明されています。
また、成功事例だけでなく、失策や作戦後に発生した論争についても詳述されている点で類書にはないものとなっています。さらにイラクとアフガニスタンで効果的であった「協同監視・襲撃プログラム」から生まれたSASとアメリカ統合特殊作戦コマンドとの密接な協同についても解説しています。銃器研究家として著名な床井雅美さんの監訳により内容はさらにアップデートされています。
本書には、今まで目にすることのなかった作戦中のSASをとらえた稀少な写真が数多く掲載され、SASや他のイギリス特殊部隊の戦闘服や装備品、車両や小火器ががフルカラーのイラストで紹介されています。

1980年の駐英イラン大使館占拠事件で鮮烈なデビューを飾ったSASは世界で最も知られる特殊部隊となり、いまも世界の特殊部隊のリーダー的な存在である。フォークランド戦争以降の主要作戦から対テロ戦まで、成功事例だけでなく、失敗例や失策にも言及しながら、SAS連隊の実像に迫る! さらにイラクとアフガニスタンで実績をあげた米統合特殊作戦コマンドとの密接な協同作戦についても詳述。作戦中のSAS連隊をとらえた珍しい写真が数多く掲載され、今まで目にすることのなかったSASやほかの英特殊部隊の戦闘服や装備品、車両や武器を再現したイラストも収録した軍事ファン必読の書!

世界で最も広く知られた特殊部隊のひとつであるSASは、口の固さでも有名だ。1991年の「グランビー」作戦後に思慮に欠ける回想録が数多く発表されたことから、連隊は隊員と支援隊員に生涯にわたる守秘義務を課した。したがって、SASの作戦や訓練を捉えた公式写真は存在せず、公にインタビューに応じる元隊員もいない。当然のこととして、本書に掲載した写真は隊員の顔や、そのほかの秘密に属する対象は黒く塗りつぶされており、また記述も情報保全に配慮したものとなった。〈「はじめに」より〉

監訳者のことば(一部)

かつて私は銃砲の調査・研究のため、イギリスにある「パターンルーム」と呼ばれる非公開の武器コレクション収蔵施設をしばしば訪れた。そこにあるのはイギリス政府が保管する各種の銃砲で、まさに世界中のとりわけ軍用の小火器が集められていた。
ここを訪れると毎日、朝から夕方まで、さまざまな銃を直接、手にして操作方法や作動の仕組みを調べたり、分解・結合の要領を確認させてもらった。
主任管理者のハーブ・ウッドエンド氏とは銃砲に対する関心を通じて公私共に親しくお付き合いすることになり、訪問時には毎回、週末に氏の自宅に泊めてもらい、近所のパブで深夜まで銃砲談義が尽きない間柄となった。残念ながら彼は亡くなり、その後「パターンルーム」のコレクションは、ほかの場所に移され、より秘密めいたものとなった。
なぜこのようなエピソードを披露するのかと、読者は不思議に思うかもしれない。じつは私の「パターンルーム」訪問と本書は思わぬつながりがあるのだ。ここでの調査中のこと、ジーンズ姿のラフな服装の屈強な若者が数人でやってきて、収蔵品の銃砲を箱に詰めて、民間車両と変わらないバンに載せてどこかに持ち出していく場面にしばしば出会った。
運び出されていたのは、あるときは旧ソビエト/ロシア軍の装備品であり、あるときは特定の地域で多く使用されている銃器だった。
ウッドエンド氏に彼らは何者なのかと尋ねると、氏はニヤッと笑い指を口に当てると、「秘密の仕事をしている兵隊たちだよ」と言葉少なに教えてくれた。疑いなく彼らはSASの隊員たちであった。
SASがこれから実任務に派遣する隊員たちの教育訓練のため、派遣先の地域で使用されている実物の武器の教材として、ここのコレクションを活用していたのだ。
たとえ私服姿でも彼らは独特の雰囲気を漂わせており、ふつうの若者とは違っていた。おそらく厳しい訓練を通して体の一部になっている何かが、周囲をけん制していたに違いない。
本書には北アイルランドで任務中のSAS隊員たちは住民のなかにうまく溶け込めなかったとの記述があるが、納得できる指摘だ。ちなみに彼らはボンバージャケットを着ていなかった。
私が直接、SAS隊員たちと言葉を交わすことはなかったが、職務上ウッドエンド氏は武器情報を通じて彼らと関係が深く、氏を通じて興味深い話を聞くことができた。ここでその多くを紹介することはできないが、そのなかの武器に関する話を少し紹介しよう。
SASの作戦は危険な地域に少人数で投入されることが多い。作戦は彼らの身体的な能力や技術・技能だけを頼りに計画されるのでなく、事前に作戦に必要なあらゆる情報が与えられる。戦闘中、対峙することになるであろう敵の武器に関する情報もきわめて重要で、それが役立っているからこそ、限られた兵力で大きな成果を上げる理由のひとつだという。
SASは、イギリス軍の一般部隊と異なり、さまざまな武器を独自に採用している。なかには特別仕様のものもある。たとえばマニュアルセフティを追加装備させたグロック・モデル17ピストルなどがよい例だ。50口径(12.7mm弾を使用)のバーレット・モデル82スナイパーライフルは、少人数で行動する彼らが強力な火力を発揮できるうってつけの武器だ。そのため開発・実用化後のきわめて早い時期に採用している。
しかし、ごく初期のバーレット・モデル82には欠陥があった。それは銃をコックしてセフティでロックし、その状態で引き鉄を引き、その後セフティを解除すると暴発してしまうのだ。SASはこれをいち早く発見し指摘した。メーカーは早速改善し、以降、欠陥は解消された。

本書『SAS英陸軍特殊部隊』(The SAS 1983-2014)は、軍事・戦史研究の分野で定評があるオスプレイ社の「エリート」シリーズの1冊である。著者のリー・ネヴィル氏は、このシリーズで多くの著作があり、欧米諸国の軍事、現代戦史、とくに特殊作戦部隊の任務や運用と、その兵器や装備品について精通しているジャーナリストである。本書は同氏著作の邦訳『米陸軍レンジャー』『欧州対テロ部隊』(いずれも小社刊)の続編といえる。

 

目次

はじめに 2

略語解説 7

第1章 SASの編制と隊員の選抜 9

デイビッド・スターリングによって創設/3つのSAS連隊/フォークランド紛争での襲撃作戦/SAS連隊の編制/SASの隊員選抜プログラム

第2章 伝説が生まれた日 19

「ニムロッド」作戦/対テロ任務の「パゴタ・チーム」誕生/全員がCTとCQB任務に精通/各国対テロ部隊に訓練指導/世界のテロ事件の現場へ/SASが公式に認めた人質救出作戦/進化するSASの対テロ技術/常時2個小隊がCT即応待機/ロンドン同時爆破テロ事件

第3章 IRAとの死闘 37

監視と待ち伏せ攻撃/射殺は正当か?─やっかいな疑惑/「テロリストに命乞いの機会はない」/待ち伏せ攻撃「ジュディー」作戦/ジブラルタルでの「フラウィウス」作戦/波紋を呼んだカンボジアへの派遣

第4章 湾岸戦争(1990〜1991年)54

活躍の場を与えられなかったSAS連隊/イラク補給路の監視任務に従事/「スカッド発射機」急襲作戦/「ブラボー・ツー・ゼロ」論争/分断されたブラボー・ツー・ゼロ隊/イラク軍正規部隊との死闘/スカッド・ミサイルの脅威を減少させた/砂漠機動作戦技術の完成/回顧録の出版差し止め

第5章 バルカン半島へ派遣(1994〜1999年)78

セルビア兵との戦い/戦犯容疑者の追跡/コソボの独立支援

第6章 シエラレオネでの人質救出(2000年) 83

「バラス」作戦/知られざるSASの活躍

第7章 アフガン戦争Ⅰ(2001〜2006年)91

無謀な「トレント作戦」/第21と第23連隊のアフガン任務

第8章 イラク戦争(2003〜2009年)95

イギリス特殊部隊「ロー」作戦/SBSの不名誉な戦い/SASとデルタ・フォースの強固な関係/ 前政権重要人物の追跡/洗練されたSASの戦術/手荒な米軍の捕虜の取り扱い/「魔法の杖」でテロリストを追いつめる/延期された派兵期間/イラク南部バスラでの戦い/人質救出作戦/SAS隊員の救出作戦/SASへの惜しみない賛辞/作戦成功の影に尊い犠牲/「クライトン」作戦の終了

第9章 アフガン戦争Ⅱ(2006〜2014年)126

「キンドル」作戦─タリバンとの戦い/殺害者リスト/高価値目標の拘束・殺害作戦/人質を全員無傷で救出/「集落安定化」作戦/多発する新たな戦い/いまも続くアフガニスタンでの作戦行動

第10章 SASの兄弟部隊 143

新たなUKSF支援部隊/オーストラリアとニュージーランドのSAS/SASの血筋をひくヨーロッパ特殊部隊

第11章 SASの小火器 148

出番が減ったMP5サブマシンガン/モデルL119A1ライフル/スナイパー・ライフル/進化するスタン・グレネード

[イラスト]
制服と装備品(Ⅰ)14
制服と装備品(Ⅱ)30
制服と装備品(Ⅲ)44
制服と装備品(Ⅳ)72
車両(Ⅰ)88
車両(Ⅱ)112
SASの主要な小火器 152
SASの特殊用途用武器と部隊章 156

参考文献 164
監訳者のことば 166

リー・ネヴィル(Leigh Neville)
アフガニスタンとイラクで活躍した一般部隊と特殊部隊ならびにこれら部隊が使用した武器や車両に関する数多くの書籍を執筆。オスプレイ社からは6点出版され、さらに数冊が刊行の予定。戦闘ゲームの開発とドキュメンタリー制作において数社のコンサルタントを務める。

床井雅美(とこい・まさみ)
東京生まれ。デュッセルドルフと東京に事務所を持ち、軍用兵器の取材を長年つづける。とくに陸戦兵器の研究には定評があり、世界的権威として知られる。主な著書に『世界の小火器』(ゴマ書房)、ピクトリアルIDシリーズ『ベレッタ・ストーリー』『最新マシンガン図鑑』(徳間文庫)、『現代ピストル』『ピストル弾薬事典』『最新軍用銃事典』(並木書房)など多数。

茂木作太郎(もぎ・さくたろう)
1970年東京生まれ。17歳で渡米し、サウスカロライナ州立シタデル大学を卒業。海上自衛隊、スターバックスコーヒー、アップルコンピュータ勤務などを経て翻訳者。訳書に『F-14トップガンデイズ』『スペツナズ』『米陸軍レンジャー』『欧州対テロ部隊』『シリア原子炉攻撃(近刊)』(並木書房)。