フィンランドの継続戦争を描く映画『アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場』

『アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場』
2019年6月22日(土) より新宿武蔵野館にて全国順次ロードショー

Introduction

フィンランド国内で『スター・ウォーズ』『パイレーツ・オブ・カリビアン』などハリウッド大作映画をも大きく上回るフィンランド映画史上最も動員した映画がいよいよ日本に上陸する!フィンランドでは“知らない人はいない”ヴァイニョ・リンナ“の古典小説「無名戦士」を原作にした本作は、第2次世界大戦時に祖国防衛のため継続戦争をソ連軍と戦ったフィンランド兵士の壮絶な姿を描く戦争アクションだ。製作費は破格ではないものの、ハリウッド大作に劣らないほどリアルに戦場を再現。まるでドキュメンタリーフィルムを見ている錯覚にさえ陥るほどの迫力だ。1テイクに使用した爆薬の量がギネス世界記録に認定されたことで、そのスケールの大きさを感じることができる。

フィンランドは1939年からソ連と戦った“冬戦争”が翌年に終結。その代償としてカレリア地方を含む広大な国土をソ連に割譲させられた。国土回復を掲げ、1941年フィンランドはドイツと手を組み再びソ連との戦争を開始した。これが「継続戦争」である。戦地についた兵士たちはそれぞれの守りたいもの、帰りたい場所のためにソ連との旧国境も超えて戦い続けた。ここに「兵士達の目線」で描かれた良質かつ精巧に描かれた正統な戦争映画が誕生した。

Story

本作の原作である小説「アンノウン・ソルジャー」は“フィンランドでは知らない者がない“ヴァイニョ・リンナの戦争文学の傑作で、作者本人が経験したフィンランドの戦争=継続戦争の戦場の実相を赤裸々に描いたものである。1955年、1985年、そして本作が同じ原作で3度目の映画化となる。

継続戦争とは、第二次世界大戦中の1941年から44年にかけて、フィンランドとソ連の間で戦われた戦争である。継続戦争に先立ち1939年から40年にかけて、ソ連によるフィンランド侵略戦争、いわゆる“冬戦争”が戦われた。この戦争でフィンランドは敗れ、1941年にドイツがソ連へ侵攻。それに呼応して、フィンランドはソ連との戦争を再開した。ドイツとともにソ連に侵攻したように見えるが、フィンランドの立場からすれば、ドイツとは別の戦争、すなわち冬戦争の継続であるとして、継続戦争と呼ぶ。

本作品は、この戦争に参加した一機関銃中隊に配属された熟練兵ロッカ(エーロ・アホ)を主人公としている。ロッカは家族と農業を営んでいたが、冬戦争でその土地がソ連に奪われたため、領土を取り戻し元の畑を耕したいと願っている。そのほかに、婚約者をヘルシンキに残して最前線で戦い、ヘルシンキで式を挙げてすぐに戦場へとんぼ返りするカリルオト(ヨハンネス・ホロパイネン)、戦場でも純粋な心を失わないヒエタネン(アク・ヒルヴィニスミ)、中隊を最後まで指揮するコスケラ(ジュシ・ヴァタネン)、この4名の兵士を軸に進んでいく。

原作者ヴァイニョ・リンナ自身の経験から、第8歩兵連隊がそのモデルと言われる。第8歩兵連隊は継続戦争勃発を前に編成され、緒戦は冬戦争で失われた旧フィンランド領土ラドガカレリアの奪還を行い、東カレリアに侵攻、ペトロザボーツクを占領している。その後はスヴィル川の防衛線につき、1944年6月のソ連軍の大攻勢を受け止め、最後はヴィープリの防衛戦に投入された。

映画は連隊の行動に沿ってその描写が進められている。冬戦争の犠牲を背景にした、フィンランド国内の厭戦的で旧領回復の願望とのアンビバランツな雰囲気、戦争の進展により旧国境を越えることに対して侵略者とされる理不尽。そして最後にはソ連軍の圧倒的な戦力によって再び戦争に敗れる痛み、これらが戦争の進展に従い赤裸々に描き出されている。アンノウン・ソルジャーはこうしたフィンランド民族が背負った歴史の重い十字架そのものを描写しているのである。

継続戦争と第二次世界大戦中のフィンランドとドイツ、日本との関係

斉木伸生(軍事評論家)

国際関係は長年の鎖国に慣れ、他国、他民族との付き合い方を知らない日本人が考えるほど単純なものではない。フィンランドは継続戦争において、ドイツと肩を並べて戦ったが、その関係はそれほど単純なものではなかった。そもそも継続戦争に先立つ冬戦争では、ドイツはフィンランドの敵と言ってさえ良かった。

1939年~40年当時は、ドイツはソ連と不可侵条約を結んでおり、その秘密議定書の中で、フィンランドをソ連の勢力圏として売り渡していたのである。このため冬戦争では、ドイツはフィンランドに味方するどころでなく、ソ連に味方して潜水艦に補給したり、諸外国からのフィンランドへの武器援助を領内でストップさせたりしている。

冬戦争に敗北しフィンランドはソ連と講和するが、それはあくまでも一時的な平和であり、ソ連は様々な影響力を行使してフィンランドを併呑しようとした。フィンランドがこれに抗しようにも、フィンランドの味方であった西側諸国は、すでにフランスは敗れイギリスは孤立していた。そしてアメリカは中立を守っていた。

フィンランドを助けられるのは、ドイツしなかった。当時ドイツは西方戦役を終えて、その矛先を東、ソ連に転じようとしていた。そのドイツとしては、フィンランドをソ連攻撃の策源地に使えば便利であった。こうして、ドイツとフィンランドの利害は一致したわけである。

ドイツからフィンランドへの武器売却が許可され、代わりにフィンランドはノルウェーにいたドイツ軍の領内通過を認めた。バルバロッサ作戦については、ドイツはフィンランドになかなか全貌を明かすことはなかったが、準備が進展するとともに、フィンランドとドイツの軍人同士の接触が深まっていった。当然それはソ連の猜疑心を深めた。

1941年6月22日にドイツのソ連侵攻が開始された当日には、まだフィンランド方面では戦端は開かれてなかった。しかし、すでにフィンランド国内をドイツ軍が通過し、フィンランドの空軍基地ではドイツの爆撃機に給油し、フィンランド湾には機雷が敷設されていた。6月25日ソ連軍はフィンランドを爆撃し、それに反発する形でフィンランドは参戦した。

フィンランドはこの戦争を継続戦争と名付けたが、これはフィンランドの戦争がドイツの戦争と呼応したものではなく、冬戦争の継続であるという意味がこめられている。実際問題としてドイツは日本と日独伊三国同盟を結んでいたが、フィンランドはハンガリー等と異なりこの同盟には加わっていない(防共協定には加わっていた)。

つまりフィンランドはドイツの同盟国として参戦したのではない、というスタンスをとっている。そして、フィンランドがドイツとともに戦っているのは、たまたま隣で肩を並べて戦っているだけのことで、フィンランドとドイツは共戦国という用語が使用されている。もちろんこれはかなり苦しい言い訳なのは間違いないが。

当初フィンランド軍はドイツ軍と密接な協力関係で作戦を進め、レニングラードの包囲やムルマンスク鉄道の切断等を行った。しかし、1941年末のモスクワ攻略の失敗、レニングラード完全包囲の失敗、そして1942年のスターリングラードでの敗北によって、徐々にその関係は冷淡なものとなっていった。実際その後ドイツ側がレニングラードの攻略やムルマンスク鉄道の完全切断等の攻撃を要請したときには、フィンランド側が断っている。

フィンランドはドイツの敗戦必至と考え単独講和の道を探ったが、それはドイツとの軋轢を増した。このため1944年6月のソ連軍の大攻勢時には、ドイツから援助を得るため、フィンランドの単独不講和を約束するリュティ(フィンランド第5代大統領)からリッベントロップ(ドイツ外務大臣)へ覚書が送られた。武器援助もあり戦線が安定したことにより、フィンランドは覚書を破棄しソ連と休戦し、休戦条件にしたがって1944年9月には、ドイツ軍をフィンランド領土より追い出すための戦い、いわゆるラップランド戦争が勃発した。

いっぽうフィンランドと日本の関係は、もちろん同盟関係には無いが、それなりに深い関係にあった。それは今年は日本フィンランド外交関係確立100周年にあたる。実は、フィンランドが独立したのはその2年前でしかない。フィンランドにとって日本は独立したばかりの自国と外交関係を築き早々に外交使節を交換した、重要な東洋の大国だったからである。

戦争当時の日本とフィンランドの関係で目立つのは、日本大使館にいた駐在武官の活動であった。日本にとっての仮想敵と言えばソ連であって、ソ連の研究は進んでいた。とくに両国の軍事関係で重要なエポックとなったのは、ソ連暗号の解読であった。フィンランド軍でもソ連暗号の解読は進めていたが、日本の軍関係者の協力によって、ソ連軍の暗号解読能力を高めることができた。

実は日本軍は1930年代まではポーランドと諜報協力関係を持っていた。しかし、ポーランドがドイツに占領された結果、使えなくなってしまった。このため代わって置かれることになった国のひとつが、フィンランドであった。日本の陸海軍から暗号専門家が派遣され、フィンランド軍の暗号解読部門に派遣されたのは、1941年のフィン・ソ開戦直前のことであった。

 

武器解説


<スオミ短機関銃>
フィンランドが国産開発した、優秀な短機関銃で、ソ連軍のPPSh短機関銃にも影響を与えた。9mmパラベラム弾を使用し、セミオート/フルオートの切り替え式である。70発も入るドラム弾倉が特徴的である。5.45kgと少々重たいが、これによってフルオートで安定して射撃できるというメリットもあった。

<モシン・ナガン小銃>
帝政ロシアで開発、ロシア軍で使用された小銃だが、フィンランド独立の過程で大量に捕獲、調達され、その後フィンランド国内で同規格の小銃が順次改良されつつ国産された。7.62mm口径のボルトアクション式で、弾倉には5発が収容される。

<ラハティ対戦車ライフル>
フィンランドで国産開発された対戦車用ライフル。なんと20mmという大口径で、それだけ大きな威力があったが、重たく大きく何よりも極めて反動が強かった。威力が大きいといっても、所詮歩兵が携行するライフルであり、装甲が厚くなった新型のソ連戦車には歯が立たなかった。

<サロランタ軽機関銃>
フィンランドで国産開発された軽機関銃だが、しばしば弾詰まりを起こし、兵士にはあまり評判が良くなかった。弾倉にも20発しか入らないため、機関銃としての使い勝手も悪かった。利点は命中精度が良いことだった。

<マキシム重機関銃>
19世紀に開発された水冷機関銃で、世界中で使用されたベストセラー重機関銃である。フィンランド軍はやはり独立の過程でロシア軍から捕獲し、その後各国から購入、さらに国産された。とくにフィンランドの改良型として、軽量型の三脚架が採用され、弾薬ベルトがオリジナルの布製から金属製となっている。

<ルガー拳銃>
フィンランド軍で最も広く使用されたのが、ルガー拳銃であった。これはフィンランド軍創設に大きく貢献したドイツ帰りのイェーガー隊員が、ドイツ時代にルガーを使用していたことに起因するという。7.65mm口径が多用されたが、9mm口径も使用された。弾倉には8発が収容される。

<カサパノス>
戦車や敵陣地の破壊のために使用されたもので、ケースに収容した爆薬を束ねたもの、収束爆薬である。工兵将校によって開発され、工場生産された制式兵器である(現地で手作りされた物もある)。束ねた爆薬ケースに木製の柄が取り付けられ、柄の中の点火栓によって点火された。爆薬重量の異なるいくつかのバリエーションがあった。

<T-26軽戦車>
イギリスのビッカース6t戦車のライセンスを得て、ソ連で生産、発展型が作られた戦車で、劇中に見られるのは最終型の1939年型である。第二次世界大戦期にはもう旧式と言って良かった。冬、継続戦争中にフィンランド軍にも多数が捕獲されて使用された。

<T-34中戦車>
第二次世界大戦を前に開発され中戦車で、主砲に76.2mm砲を装備し、車体には傾斜装甲を採用、大出力のエンジンと幅広の履帯を備えていた。攻撃力、防御力、機動力全てに優れた傑作戦車で、世界の戦車発達史上もエポックとなった。劇中に見られるのは初期型の1940年型である。フィンランド軍も少数を捕獲して使用した。

<T-34-85中戦車>
第二次世界大戦中期に開発された、T-34中戦車の発展型で、ドイツ戦車の発達によって見劣りするようになった、攻撃力の強化が図られていた。武装により強力な85mm砲を、大型の新型の砲塔に装備していた。車体はほぼ同一で、防御力、機動力にはほぼ変わりはない。フィンランド軍も少数を捕獲して使用した。

フィンランド戦争年表

1939年9月 ドイツのポーランド侵攻、第二次世界大戦勃発

9月~10月 ソ連バルト三国と相互援助条約締結

10月 ソ連、フィンランドにも条約交渉のための使節を派遣要求

11月 冬戦争勃発

1940年3月 冬戦争終結

4月 ドイツ軍 デンマークとノルウェー占領

5月 ドイツ軍 西方戦役開始

6月 フランス降伏

8月 ソ連、バルト三国併合

9月 領内通過協定に基づき、ドイツ軍第一陣がフィンランド到着

1941年1月 ドイツ、フィンランド地域にかかわる「銀狐」作戦を策定

2月 ドイツ、アフリカ軍団派遣

4月 ドイツ軍、ヨーゴスラビア、ギリシャ侵攻

6月 ドイツ軍、ソ連侵攻、バルバロッサ作戦開始、継続戦争勃発

9月 フィンランド軍旧国境を越えて東カレリア侵攻

10月 フィンランド軍ペトロザボーツク占領

12月 イギリス、フィンランド宣戦、ドイツ軍モスクワ攻略失敗、フィンランド軍攻勢を止め陣地戦に入る

1942年5月 ロンメルのアフリカ軍団によるリビア攻勢

6月 ドイツ軍による第二次ロシア攻勢開始

8月 ロンメルによる攻勢、アラム・ファルファの戦い

9月 ロシアでスターリングラード攻防戦始まる

10月 イギリス軍が、エル・アラメインで攻勢に出る

11月 連合軍の北アフリカ上陸、ロシア軍の攻勢によりスターリングラードで第6軍包囲される

1943年2月 スターリングラードの第6軍降伏

7月 ドイツ軍のクルスク攻勢/失敗、連合軍のシシリー上陸

8月 ソ連軍のウクライナ攻勢

9月 連合軍のイタリア本土上陸、イタリア降伏

11月 キエフ解放

1944年6月 連合軍のノルマンディ上陸、ソ連軍のカレリア攻勢、フィンランドの単独不講和を約束するリュティからリッベントロップへの覚書が送られた、ソ連軍のベラルーシ/ポーランド攻勢バグラチオン作戦開始

8月 マンネルヘイムがフィンランド大統領に就任、ワルシャワ蜂起

9月 フィンランド、ソ連と休戦

12月 ドイツ軍のアルデンヌ攻勢/失敗

1945年4月 ベルリン陥落

5月 ドイツ降伏

8月 日本降伏

作品情報

『アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場』
2019年6月22日(土) より新宿武蔵野館にて全国順次ロードショー

監督・脚本:アク・ロウヒミエス『4月の涙』
撮影:ミカ・オラスマー『アイアン・スカイ』
出演:エーロ・アホ(『4月の涙』)、ヨハンネス・ホロパイネン、ジュシ・ヴァタネン、アク・ヒルヴィニエミ、ハンネス・スオミほか
2017年/フィンランド/フィンランド語/カラー/132分(インターナショナル版)/原題:Tuntematon sotilas PG-12
後援:フィンランド大使館
配給:彩プロ
© ELOKUVAOSAKEYHTIÖSUOMI 2017
公式サイト:http://unknown-soldier.ayapro.ne.jp/