ロシア幻の短機関銃・ゲパルド“豹”

クリンコフとして知られているAKS-74UとMAGPUL FPGを合体させたような見た目のこの短機関銃。初めてメディアに登場したのはソ連崩壊後の1997年のことでした(開発はロシアの銃器製造会社の一つであったレクス社が1995年から行っていたそうです)。

 

ゲパルド1

 

この銃が開発されたソ連崩壊後のロシアでは、犯罪率はうなぎ登りの文字通りの世紀末状態。計画経済崩壊後の混乱の中で軍人や警察官への給与支払いも滞るにつれ、最新兵器からはてはナチスや日本軍から接収した拳銃や日本刀の備蓄までが犯罪者に軍や警察から横流しされるようになりました。
結果として、ロシア当局は拳銃よりも強力な武器で対処する必要が出てきます。しかし犯罪捜査となるとAKS-74Uでは威力が高すぎることが前から指摘されていました(実際にロシアの警官は今でもAKS-74Uを携帯していますが)。また、AKS-74Uの市街地での携帯性の悪さも指摘されていました。そこで拳銃よりは火力がありながら威力を抑えた短機関銃の必要性が認識され、AKS-74Uを基に開発されたのがこのЭкспериментальный(試作) пистолет-пулемет(短機関銃) “Гепард”(ゲパルド)。ゲパルドとはロシア語でチーターの意味です。

 

機関部などはAKそのものといった感じで、セレクターレバーも右側にあり、ストックは左側面に折りたたまれます。実際65 – 70%のパーツはAKS-74Uと関連性があるそうです。引用元の記事によれば、そのような部品の共通性があったことから、AKS-74U用の製造設備を利用して生産できることが指摘されています。

 

銃自体の性能ですが、マガジンなしの重さが2kg、フル装填の20発マガジンが1kg(通常の20発入りのマガジンに加え40発のロングマガジンも使用可能とのことです)。長さはストックを折りたたんだ状態で42cm、ストックを伸ばした状態で64cm。銃身長が23.5cm程度で、一分間に600から700発の発射が可能。また、有効射程は200メートルだとのことです。

 

弾薬は基本的には9mmパラべラム弾を使用するものとされていますが、実際は9mmの弾薬ならロシア製のものでも海外のものでも発射可能なそうで、それが銃の特徴になっているそうです。実際に撃つ時には内部部品の交換が必要なわけですが、その交換作業が作戦開始前の短時間で終えられるように設計されているそうです。

このような弾丸を選べる設計にしたのは特殊作戦での使用も想定している為で、サイレンサーが装着されている画像もあります。また、ストックの付け根とグリップについているリングにスリングをつけることによって服の下に隠せるように設計されているとのことですが、さらに片手で撃ったり、服の下から腰だめで撃ちやすいようにも設計されているそうです。

 

ゲパルド2

 

しかしこのゲパルド、制式採用大量生産には至らず、その原因は部品点数の多さによるとのこと。ですがこれは内部機構が複雑で部品が多いというよりは、運用上の交換用付属部品が多いだけのようです。確かに分解図を見て分かるように、リコイルスプリングと撃針が4つずつ、ボルトが3つあります。これは、敵地などでも様々な種類の9㎜弾を撃てるため様にするための交換用でしたが、ロシア軍は興味を示さなかったようです。

銃口取り付け用部品としては一番上の
(1)螺旋入りマズルブレーキ・コンペンセイター・フラッシュサプレッサー(非常に長い名称)、
(2)一般的なフラッシュハイダー、
(3)銀色の空砲用ハイダー、
(4)サイレンサーが付属しています。

不採用の一番大きな理由は単純にロシア軍にとって必要なかったという線が濃厚だと思われます。一般的な短機関銃なら93年からПП-91がありますし、さらに言えばロシアでは現在も警官ですら自動小銃を平然と持ち歩いているのを時たま街中で見かけます。

 

3ゲパルド

 

しかし、現在もそのSFチックな外見からロシアのゲームや小説の中で兵器として時たま登場したりしています。

(文: ピョートル・石倉)

 

引用・参考資料:
http://topwar.ru/43112-eksperimentalnyy-pistolet-pulemet-gepard.html