艦魂 第五話 レイテ沖海戦 小沢艦隊

艦魂 第五話 レイテ沖海戦 小沢艦隊

栗田艦隊が被害を受け続けていた24日の午後、空母「瑞鶴」と軽空母「瑞鳳」、「千歳」及び「千代田」を中心とする小沢冶三郎中将の艦隊はフィリピンの北東を南進。目的はアメリカ軍空母による空襲を自分たちに引きつけることで、栗田艦隊のレイテ湾突入を助けることだった。

午後4時に小沢艦隊を発見したアメリカ軍第3艦隊は、栗田艦隊に十分な打撃を与えたと判断し、夜間にフィリピン沖を北上。その頃通信から栗田艦隊の突入が予定より遅れると考えた小沢艦隊は、反転してこちらも北上した。

そして茂が再び目覚めた時にいた場所は、まさにこの「瑞鶴」の艦内だったのである。

「また、お会いしましたね」

「……うん」

何度気を失っても、現代に戻れない。最早自分がこのまま永遠に過去を彷徨い続けるのではないかと疑心暗鬼になりつつあった茂は、うなだれたまま小さい声で返事をした。

「まさか、よりにもよって今の私に来るなんて」

「やっぱり、迷惑かな?」

「いいえ。そうではなく……おそらく私は、この海戦で撃沈されてしまうでしょう。それに未来からやってきた貴方を巻き込むのは、申し訳ない気がして」

「どういう意味?」

今回の作戦を襲えられた茂は、愕然とする。だが直後、「瑞鶴」が第一次攻撃隊の180機を捉えた。

瑞鶴と茂が甲板に上がると、既に米軍機が攻撃を始めており、標的となった各艦は右に左に懸命の回避を試みていた。しかし「千歳」と駆逐艦「秋月」が相次いで爆弾を受け、炎に包まれる。

「あの機体……こっちに来ます!」

攻撃機が海面すれすれを飛びながら、「瑞鶴」に魚雷を放つ。狙いは正確で、回避は不可能であった。

「助けて……嫌ああぁぁっ!」
 瑞鶴は恐怖のあまり飛び退くが、魚雷は残酷にも「瑞鶴」に向かう。

直後、魚雷の爆発による水柱と共に「瑞鶴」の船体が揺れる。瑞鶴は痛みに息を荒げながら、その場にへたり込んだ。

「はぁ……はぁ……くうっ!」

「瑞鶴!」

「だ、大丈夫です。このくらいなら」

腹から血を流す瑞鶴に何もしてやれず、茂はもどかしく思う。また悪いことにこの際「瑞鶴」の通信機が損傷し、敵空母を引きつけることに成功した旨を知らせる電報が打てなくなった。



またこの第一次攻撃で軽巡洋艦「多摩」にも魚雷が命中し、速力が最高速度の半分程度しかない18ノット(時速およそ33キロメートル)に落ちた。

後に、爆弾が命中した「千歳」と「秋月」は沈没。しかし午前10時には第二次攻撃隊の36機が来襲し、今度は「千代田」が爆弾を受け航行不能に陥った。

10時51分、小沢中将は旗艦を「大淀」に変更。茂も、同時に「瑞鶴」を離れることになった。

「河瀬さん……どうか、御無事で。まだ、時間があるはずです」

自分が被弾して、何時間も経っていない。瑞鶴は、まだ暫くの間は生き延びる自信があった。

「瑞鶴……有り難う」

深手を負いながらも自分を心配してくれる瑞鶴に、茂は心からの礼を述べる。
午後1時、第三次攻撃隊のおよそ200機が到着。ここまで無傷だった「瑞鳳」がついに被害を受け、「瑞鶴」もさらなる攻撃に晒され、遂には致命傷となった。

「私たちの務めは、果たしました……あとは、突入する部隊の武運を祈るだけです」

そう言うと「瑞鶴」はその場に倒れ伏し、二度と目を覚ますことは無かった。
2時14分、空母「瑞鶴」沈没。アメリカとの海戦以来ほとんど被害を受けなかった幸運艦は、最後にあまりにも無謀な命令を受け、フィリピン沖に散った。これにより、真珠湾攻撃に参加した6隻の空母は、全てその生涯を閉じたことになる。

「瑞鶴……っ!」
 軽巡洋艦「大淀」から「瑞鶴」の沈没を見届けた茂は、再び意識を喪失した。

この後2時20分には軽巡洋艦「五十鈴」が航行不能に陥り、午後3時過ぎには第四次攻撃隊の約30機が攻撃を開始。3時27分には「瑞鳳」が沈められ、残る空母は航行不能になった「千代田」だけとなった。

この「千代田」は、4時55分にアメリカ軍の重巡洋艦及び軽巡洋艦各2隻などに襲撃され沈没。小沢艦隊はこうして空母全艦と引き換えにアメリカ軍の空母を誘い込んだものの、それを確信できなかった栗田艦隊が撤退したため目的は達成できなかった。

小沢艦隊の受難はなおも続き、5時過ぎに約150機の攻撃隊が現れ戦艦「伊勢」及び「日向」が多数の至近弾により損傷。しかし噴進弾(ロケット弾)等を用いた迎撃で、爆弾や魚雷の直撃は避けられた。

また沈没まで「瑞鶴」を共に護衛していた駆逐艦「若月」と、「千代田」の沈没を知らずに捜索していた「五十鈴」を護るために一隻で13隻(重巡洋艦及び軽巡洋艦各2隻、駆逐艦9隻)の艦隊と戦った駆逐艦「初月」が、8時59分に撃沈されている。

艦隊から離れ一隻で離脱を試みた「多摩」は、途中潜水艦「ジャラオ」の魚雷を受け11時5分に沈没。一隻のみで行動していたこともあり、生存者は皆無だった。

こうして、日本海軍の空母戦力は壊滅。何隻かの空母は生き残っていたものの、最早空母の離着艦ができるような練度を持つ搭乗員は少なく、以後日本がまともな機動部隊を編成することは無かった。

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2013/07/02