映画『アンノウン・ソルジャー』にみるフィンランド軍の小火器装備

映画『アンノウン・ソルジャー』にみるフィンランド軍の小火器装備

解説:斎木 伸生

フィンランド軍の武器調達

フィンランドはいまからおよそ100年前、1917年12月に独立した。独立前はロシア帝国の一部、フィンランド大公国だった。大公国時代のフィンランドでは、国の防衛はロシア軍の任務だったが、当初フィンランド自身の軍の保有も認められていた。しかし、ロシア化が進められ1905年には廃止されて、ロシア軍に統一されてしまった。フィンランドの独立はロシア革命のどさくさによるもので、フィンランドでも赤白内戦が勃発し、内戦に勝利した側の白衛軍を中心に、後のフィンランド国防軍は編成されることになった。

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独立戦争中のフィンランドには、世界各国からの武器が流入したが、主流となったのは駐屯していたロシア軍の使用していた火器であった。これらの火器はロシア軍の弾薬庫から大量に鹵獲されて、フィンランド軍の武器となった。後の戦争も含めてフィンランドの特異な面は、武器を鹵獲で調達していることである。とはいえもちろんそれだけでなく、輸入や国産努力もなされた。

早くも1920年代には、国営ライフル工廠(VTT)が設立された。主に生産されたのは、ロシア軍の主力小銃であったモシン・ナガン系列で、改良型のkiv/27、28、28-30民兵モデル等が生産された。おもしろいのが拳銃で、フィンランド軍ではルガー拳銃が、最も広く使用された。これはフィンランドの独立には、第一次世界大戦中にドイツに軍事訓練に渡航していたイエーガー隊員が大きな役割を果たしており、彼らが持ち込んだことに起因するという。

マキシム系重機関銃
機関銃にはやはりロシア譲りのマキシム系重機関銃が使用された。これは最初は鹵獲されたものが、後に各国から輸入された。これら機関銃はオリジナルのままでなく、フィンランド独自の改良が盛り込まれ、さらにフィンランドでも国産された。マキシムは重機関銃であったが、軽機関銃はフィンランドで国産が試みられた。サロランタ軽機関銃pk/26がそれだが、どうもあんまり評判は良くなかったようだ。

フィンランドで国産されたと言えば有名なのが、スオミ短機関銃kp/31である。冬戦争中のスオミの活躍振りがインパクトを与えて、そのPPSh-41開発に影響を与えたほどだ。ただ、実際にはその数量は少なく、冬戦争当時で約4000挺に過ぎなかった。その他限定的にベルグマン短機関銃も使用されたが、これは軍ではなく民兵組織が購入していたものを転用したものであった。


フィンランド国産のとんでもない小火器が、ラフティ対戦車ライフルpst kiv/39であった。これはなんと20mmという大口径ライフルで、それだけ大きな威力があったが、重たく大きく何よりも極めて反動が強かった。それでも所詮歩兵が携行するライフルであり、T-34のような新型ソ連戦車には歯が立たなかった。その他フィンランド国産(!)の対戦車兵器としては、収束爆薬「カサパノス」と火炎瓶(!)があった。

冬戦争、そして継続戦争へ

冬戦争は終結したものの、それはもちろんフィンランドでは永続的な平和とは思われておらず、フィンランドは兵器の調達に努めた。とはいえ時代は世界戦争の時代であり、どこも自国が優先でおいそれと売ってくれる国もなかった。それに、冬戦争から継続戦争までの間はわずか1年余でしかなく、実際にできることはほとんどなかった。

継続戦争

結局フィンランド軍は、冬戦争当時とほとんど同じ兵器体系のまま継続戦争を戦わざるを得なかった。それどころか、世界各国から援助や購入されたことで、さまざまな火器が並行して使用されることになった。ただし、これらの火器は数量が限られており、またその後の安定供給も見込めなかったため、主力火器とはなり得なかった。

相変わらず主力小銃はモシン・ナガン系で、冬戦争ではなんと4万482挺もが鹵獲されたという。ソ連軍からは軽機関銃も3877挺が鹵獲されたが、これは皿型弾倉が特徴のDP軽機関銃が鹵獲された。同系機関銃は車載用に使用されており、フィンランド軍の戦車、突撃砲にも装備されている。重機関銃も910挺が鹵獲されたが、PM1910重機関銃であろう。フィンランド軍は小火器の装備体系、弾薬体系が、ほぼソ連軍と同じなので、鹵獲して使用するには非常に便利だった。

モシン・ナガン

継続戦争でも緒戦はフィンランド軍の進撃に、ソ連軍は後退に後退を続けたから、同様に多数のソ連製装備が入手された。継続戦争ではフィンランドはドイツとともに戦い、とくに航空機はドイツ製が使用された。小火器に関してもドイツからの援助によって再装備することが検討されたが、全野戦軍の再装備はあまりに大変な作業であり過ぎ、結局見送られた。

国産兵器の量産は進められ、スオミ短機関銃は継続戦争終結までに、約8万挺が生産された。サロランタ軽機関銃も生産が続けられたが、前述のDP軽機関銃の方が良いということで、しだいに前線部隊の装備から外されてしまったという。生産も約5千挺が生産されたところで、1942年には打ち切られた。実際1944年時点では、サロランタが約3200挺使用されていたのにたいして、DP機関銃が約9000挺だったというから、完全に立場は逆転していた。

フィンランド軍にとって決定的に不足していた対戦車火器については、継続戦争中ドイツよりパンツァーファウストとパンツァーシュレッケが導入された。とくにこれらの火器は、1944年6月のソ連軍大攻勢のときに、ドイツより緊急的に届けられ、フィンランド軍の善戦におおいに貢献したことが知られている。

銃器解説

では、フィンランド軍で使用された、各小火器について解説して行こう。


まずはルガー拳銃である。言わずとしれたドイツ製の自動拳銃だ。もともとイエーガーが持ち込んだのは9mmルガーだったが、実際にフィンランド軍で多用されたのは7.65mm口径だった。フィンランド軍では国産されたラフテイpist/35も使用されたが、そちらは9mm口径だった。

モシン・ナガン小銃
モシン・ナガン小銃は、帝政ロシアで開発され、ロシア軍で使用された小銃だ。kiv/27ではバレルが短縮され、ボルトフレームや弾倉部品が改良されて、信頼性が向上していた。目立つのはフロントサイトのデザインが変更されたことで、その形状から兵士から「ビュスティコルヴァ(スピッツ)」と呼ばれたという。

スオミ短機関銃
スオミ短機関銃は、フィンランドが国産開発した、優秀な短機関銃だ。9mmパラベラム弾を使用し、セミオート/フルオートの切り替え式で、フルオートでは毎分900発の発射速度になる。5.45kgと少々重たいが、これによってフルオートで安定して射撃できるというメリットもあった。


70発も入るドラム弾倉が特徴的である。映画の中では弾倉に弾丸を詰めさせる場面があった。

サロランタ軽機関銃
サロランタ軽機関銃は、フィンランドで国産開発された軽機関銃だが、設計に問題があったようだ。しばしば弾詰まりを起こし、兵士たちからは「故障だらけの26型」と呼ばれていたという。弾倉にも20発しか入らないため、機関銃としての使い勝手も悪かった。利点は命中精度が良いことだった。

マキシム重機関銃
マキシム重機関銃は、19世紀に開発された水冷機関銃で、世界中で使用されたベストセラー重機関銃である。フィンランド軍はやはり独立の過程でロシア軍から鹵獲した。初期のマキシム機関銃は、PM1905またはPM1910で本来形式が異なるが、フィンランド軍ではまとめてM/09-09に分類された。マキシム機関銃は、その後ポーランドやイタリア等各国から購入、さらに国産もされた。

軽量型の三脚架
フィンランド軍では、その重たい銃架を独自開発の軽量型の三脚架に変更し、これはM/09-21と呼ばれた。またマキシム機関銃には布製の弾薬ベルトが使用されていたが、これはフィンランドの天候条件では、冬季湿ると凍りついて使用不能となることがあった。このため金属製の弾薬ベルトが使用できる改良型が開発され、M/32-33と呼ばれた。

ラフティ対戦車ライフル
ラフティ対戦車ライフルは、フィンランドで国産開発された対戦車用ライフルで、当初は13mm口径で設計されたが威力を向上されるため20mmの大口径に変更された。300mで16mm(30度傾斜)、500mで12mmの装甲貫徹力があった。セミオートマチック式で弾倉には10発が装填され、素早く次弾を発射することができた。ただ重たく大きく何よりも極めて反動が強いのが難点だった。大戦中期以降は対戦車用としては威力不足のため、敵陣地や機関銃座の破壊に使用された。

作品情報

『アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場
2019年6月22日(土)より新宿武蔵野館にて全国順次ロードショー

監督・脚本:アク・ロウヒミエス『4月の涙』、撮影:ミカ・オラスマー『アイアン・スカイ』
出演:エーロ・アホ(『4月の涙』)、ヨハンネス・ホロパイネン、ジュシ・ヴァタネン、アク・ヒルヴィニエミ、ハンネス・スオミほか
2017年/フィンランド/フィンランド語/カラー/132分/原題:Tuntematon sotilas PG-12
後援:フィンランド大使館 配給:彩プロ
©ELOKUVAOSAKEYHTIÖSUOMI 2017

公式サイト:http://unknown-soldier.ayapro.ne.jp/

STORY

1940年、フィンランドは、ソ連との“冬戦争”で独立は維持するも、ソ連からカレリア地方を含む広大な土地を割譲させられてしまう。
1941年、ソ連はなおもフィンランドへの侵略を計画。それを阻止し、また占領された土地を取り戻すため、フィンランド軍はナチスドイツの力を借り祖国のために立ち上がる。

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この作品は、いわゆる“継続戦争”におけるフィンランド軍兵士たちが、ソ連軍へ果敢に挑む歩兵たちの戦場における壮絶な任務を丁寧にかつ壮大に描いていく「兵士目線に徹した」戦争映画である。
ロッカ、カリルオト、コスケラ、ヒエタネン、年齢や立場、支える家族などそれぞれ生きてきた背景が違う4人の兵士たちを通して、フィンランド軍がいかにしてソ連軍と勇敢に戦ったのかを克明に描写する。

非情である最前線で戦う兵士たちに血肉を通わせ、友情、ユーモア、そして生きる意志が兵士たちの団結の力を生み、占領された土地を取り戻していく。
最前線を担う各兵士たちの生活とその家族たちの生活を大きく変えてしまった“継続戦争”だが、たとえ戦場で息絶えたとしても戦士たちの生きた証はそれぞれの家族に、そして大地に確実に刻まれていくのだった。

2019/06/10



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