[殺し屋っぽい] Gun & Story コンクール

ストーリー No.02

タイトル:コンティネンタルTOKYO

投稿者:Takeo Ishii

ストーリー:

JR「新大久保」駅の改札を左に出て100歩程行くと、全国的な大手チェーンのファミレスがある。その店の男子トイレの奥の物入れには、脂っぽい埃にまみれたデカい集塵機が入っている。誰かが個室と間違えてここを開けても決して触る気にはならない汚れ方だが、俺は躊躇せず手を伸ばし、電話で教えられた通りの位置に10 本の指を置く。
集塵機はスルスル音もなく奥に移動し、地下深くに続く暗い階段が口を開けた。

「コンティネンタルTOKYO」は戦時中、本土決戦に備えて都内各地に張り巡らされた地下空間を利用して秘密裏に建設された。俺は大抵、歌舞伎町から大久保に掛けて十数ヶ所ある「通用口」を使わされる。どれも小汚くていけない。
フロントで20年来の腐れ縁である副支配人、中ノ島にそうコボすと、
“いつも澄みません♪”
奴は恵比寿様みたいに福々しいいつもの笑顔と共に、預けてあった俺の銃をカウンターに置いた。G17のグリップを切り詰めG19の弾倉が挿せる、俺のグロック。

20年前、群馬県伊香保の元ヤクザ組長の家にあったガラクタ箱からこいつを選んだ時、G19のマガジンしか見つからなかったのでこうなった。その後は仕事の度にあちこち手を入れ、空き缶で自作してたサプレッサーも今じゃメイカー製の上物になったが、「スライド17、グリップ19」なのは変えようがないし、これはこれで結構気に入ってる。


 
1999年の秋、俺は池袋で悪徳商法絡みの5人を、この銃で撃ち殺した。
そいつらに騙されて背負った借金を返すため風俗店で働いていたある女性の「心」を救いたかったのだ。
いま考えたらしょーもない理由だったのかもしれん。だがN.Y.には「愛車を盗まれ犬を殺された」というだけの理由でロシアンマフィアを皆殺しにした奴もいるとか。俺なんか可愛いもんだ。
悪徳商法の主犯格だった奴の愛人兼ボディガードの女が、じつは北朝鮮の元スパイでトカレフを操るとんでもない凄腕ビッチだった。こいつは数年前からコンティネンタルの賞金首でもあったのだが、俺はその事実を知らぬままこの「池袋5人殺し」をやり遂げた。中ノ島は俺に協力するフリをしながら、俺の「猟犬としての能力」を測っていたのだ。
当時サラリーマンで所帯を持ったばかりだった俺に中ノ島からのオファーを断れる筈もなく、俺はそのまま家族にも秘密でコンティネンタルのメンバーとなり、今でもこの稼業をずっと続けている。
要するに俺は、「コンティネンタルTOKYO副支配人・中ノ島」にこの20年間、ガッチリとタマを握られている。しかし奴はじつに腰が低く、そして抜け目のない気遣いを見せる。俺に気持ちよく仕事をさせる術に長けているのだ。

“お父様の13回忌は無事にお済みで?”
グロックに眼を落としながら中ノ島。
“ああ、ついこの前な・・・・・・。”

父にとって、俺と妹は40を過ぎて奇跡的に授かった子供たちだった。だが他人に言えない過去を持つ父は、母と俺と妹に危険が及ぶことを恐れてか、一緒に暮らす事は死ぬまでなかった。
俺にとっての父は、年に何回か予告もなくフラリと現れ、母と激しく口論し、金を渡してすぐ帰る、何を考えているのか判らない男だった。
だが20年前のあの日、俺が理由も告げず
“父さん、俺、銃が要る。”
と言った時、父はかつての抗争相手だった群馬県伊香保の親分のところに赴き、家族の命とこのグロックと引き換えに70過ぎの老いた身体を殴る蹴るの拷問に差し出し、小指を詰めさせられた。

そのグロックを手に、俺は今回も狩に出る。だがその前に、「所沢の訓練所」で鈍った感を取り戻さないといけない。何しろ今度の標的は例の「NYの犬男」なのだ。
向こうでは日系ハワイアンの同業者と奴の店で合流する事になっている。
“オレはオマエとオナジ、コロシのタツジーン!”
と、変な日本語で叫びながら握る、あいつの不味い寿司にも付き合わなきゃならん。


[殺し屋っぽい] Gun & Story コンクール トップページ


2019/09/03

■関連レビュー

キアヌ・リーブス JOHN WICK 登場銃器解説 映画『ジョン・ウィック』 登場銃器解説

映画『ジョン・ウィック:チャプター2』 登場銃器解説 映画『ジョン・ウィック:チャプター2』 登場銃器解説