トイガン史 1963 ~ 1993 - あるガンマニアの追憶 -

トイガン史 1963 ~ 1993 - あるガンマニアの追憶 -

文 出二夢カズヤ
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第7回 1988~1991年 ガスブロ登場と、モデルガン時代の終焉

ブローバック動作を実現した史上初のガスガン、東京マルイM59の登場は、我々ガンマニアに大きな衝撃を与えたが、それはほんの序章に過ぎなかった。

1988年初頭、マルシン工業が満を持して発売した初めての長物ガスガン、M1カービンは、美しい木製ストックを備えたリアルな外観に加え、ブローバックと同時に実弾を模したカートリッジ(ライブカート)を排出するというガスオペレーションを実現。それはもはや、低圧ガスで動くモデルガンといった趣で、私のような古くからのマニアにとって、たまらなく魅力的な製品だった。


拳銃弾の2倍はあろうかという長さのカートリッジを、モデルガンさながらにエジェクトするという、ガスオペレーションシステムなる新機構の登場。コンバットマガジン誌に掲載されたマルシンの広告にはすべてのガンマニアが度肝を抜かれたが、その機構を実現するため、M1カービンのスマートなフォルムを犠牲にせざるを得ず、フォアエンド部分が下方向に膨らんでしまった。

そんなM1カービンとほぼ同じタイミングで、東京マルイも初の長物ガスガン、ワルサーMPLをリリースする。 それはマルシンM1カービンと同じカートリッジの排出を実現したブローバックモデルだったが、さらにセミ、フルオートの切り替えまで可能という、信じ難い機能を備えていたのだ。




BB弾の発射と同時に、ブローバックによるカートリッジをエジェクト。しかもセミ・フルセレクティブファイヤーまで実現しているという東京マルイの雑誌広告は、俄かには信じられない内容だった。しかし実際に発売されたワルサーMPLは、看板に偽り無しの素晴らしい性能で、まさに究極のガス銃と呼ぶにふさわしい製品だった。


ワルサーMPLに続いて発売された、東京マルイの「自動排きょうシステム」搭載ガスガン、MP5A3のブローバックシーン。樹脂製のカートリッジが勢い良く蹴り出されている様子が良くわかる画像だ。マガジン内には、カートリッジとBB弾が個別に収納される仕組みで、BB弾の発射と排莢を自由に選んで楽しむことが出来た。

すると、このマルイMPLに対抗するかのように同年夏、マルシン工業はモデルガンそのままの外観にセミ、フル切り替え機能を搭載した、ライブカート式ブローバックガスガン、ウージーSMGを発売。日本一のウージーファンを自認する私が狂喜したのは言うまでもないことである。


低圧ガスでの快調なブローバック動作とカートリッジのエジェクト、そしてBB弾の発射を実現しながら、外観を一切崩していないという意味において、このUZIはマルシンガスオペレーションシステムの完成形であった。ガスガンとしての実射性能は今ひとつだったが、多くのマニアは、「メンテナンス不要のモデルガン」としてこの製品を愛好した。

この頃になると、他メーカーのフルオートガスガンもセミ、フルオートの切り替え機能をこぞって搭載し始めるのだが、アサヒファイアーアームズは新製品のF.N.FNCで、2点、3点バーストを実現するメカニズムを開発し、他メーカーの1歩先をリードして見せた。しかし当時の景気を考慮しても、58,000円という価格は、誰もが気軽に支払える額とは言えない。そこに現れたのが、新規参入メーカーであるトイテックのガスガン、キャリコM100だった。

『悪魔のシステム』というキャッチコピーとともにぶち上げられた広告によれば、セミ、フル、3点バーストの制御はもちろんのこと、1000発もの装弾数をフルオートで撃ち続けることが可能。しかも、トイガンの歴史上初めて、実銃のメーカーであるU.S.A CALICO社とのライセンス契約まで結んでいるという。
さらにこれだけの仕様でありながら、その価格は18,000円という手頃さである。もしやダミー広告ではと疑う者があったというのも、無理からぬ話しだろう。


先に発売されていたMGCのキャリコよりもひとまわり大柄なトイテックキャリコ。実はMGCの方が実銃に忠実なサイズで作られていたのだが、実銃メーカーとのライセンス契約があったため、トイテックが正解と思い込んでいたユーザーが多かった。

果たして同年初冬、トイテックのキャリコは予告通りの内容で発売され、最後まで半信半疑だった我々の度肝を抜いた。何しろ、マガジンに流し込んだ1000発のBB弾を、低圧ガス(圧縮空気)がある限り延々と撃ち続けられるのだ。それは当時のサバゲーシーンにおいて、まさに悪魔のような火力だった。

長物ガスガンが驚異的な進化を遂げた1988年だったが、翌1989年はハンドガンの年になる。

その先陣を切ったのは、プラモデルメーカーとして有名なフジミ模型が投入したガスガン、モーゼルM712だ(発売は1988年末)。


ハンドガンサイズでのセミ・フルセレクティブファイヤーを実現した初めてのガスガンが、プラモデルメーカーから発売されたという事実を、当時のトイガンメーカーはどのように受け止めていたのだろうか。細くて薄いモーゼルM712のフォルムを崩すことなく、見事ガスガン化を実現した技術力は驚嘆のひと言だった。


フジミ模型が何故突然ガスガンを? と、古くからの模型ファンとして疑問に思ったものだが、実銃の美しいフォルムをそのままに、セミ、フルオートの切替射撃を実現。そして、撃つたびにボルトが10mmほど動くギミックまで搭載した技術力の高さには心底驚かされた。
また、本格的な造りの木製ストックホルスターをオプションとして発売。そこまでやるか! と、我々ガンマニアを大いに喜ばせてくれた。

続いては、今やリボルバー型ガスガンのトップメーカーであるタナカワークスが、同社初のブローバックガスガン、コルトガバメントM1911A1を発売。スプリングの力でスライドを後方に引っ張るマルイM59方式とは違い、低圧ガスの力でスライドを後退させる、言わば真意のブローバックを実現した初めての製品となった。


ついに登場したガバメントのブローバックガスガン。いわゆる割り箸マガジンではあるが、マルイM59では出来なかったグリップ底部にマガジンを挿入するという部分が、ガンマニアの心をくすぐってくれた。

そのストロークは若干短かったものの、ガス圧によって勢い良く動作するスライドはしっかりしたリコイルを生み出し、かつてない重厚な撃ち応えを感じさせてくれた。
また、正確な刻印や細部の形状まで造りこまれたリアルな外観も多くのマニアを魅了。いよいよモデルガンの存在意義が危うくなったと思ったところに、更なる追い討ちをかけるような製品が登場する。

究極のガバメントと銘打ってマルシン工業が発売した、コルトガバメントMk4。それは、先に発売したM1カービンとウージーSMG同様、BB弾の発射とカートリッジの排出を同時にこなすガスオペレーションシステムを搭載した、驚異的な新製品だった。


このコルトガバメントMK4こそ、マルシンが産み出したガスオペレーションシステムの進化の頂点であり、
同社の提示するトイガンのあり方の、ひとつの解答だった。しかしそれは、マルシンが営々と作り続けて来たモデルガンに相対する存在ともなった。

構造上、マガジンとカートリッジがやや小ぶりではあるものの、グリップ底部に液化ガスをチャージするだけで、BB弾の発射に加え、フルストロークのブローバックと、カートリッジが勢い良く蹴り出される様が存分に楽しめるのだ。そのギミックをハンドガンのサイズで実現しているのだから、マルシン工業の技術力には恐れ入った。

発売後すぐに購入したこの製品は、まさに理想のトイガンと言えるものだったが、そのあまりの調子の良さに、私は少々複雑な思いを抱かざるを得なかった。

当然のことながら、火薬を使うモデルガンのブローバックに較べれば、手首に来るリコイルは軽いものだし、迫力ある銃声や火花が発生することも無い。しかし、発火後の清掃とメンテナンスが一切不要なブローバックガスガンは、それらの要素を差し引いても有り余るほどに魅力的だった。
さらに悲しいかな、1980年代が終わろうというこの頃は世間の眼が厳しくなり、どこでも気軽にモデルガンを発火出来る状況ではなくなっていたのだ。

サバイバルゲームが牽引したエア(ガス)ガンブームではあったが、トイガンというジャンルにおいてモデルガンの人気が下火になって行ったのは、世相の変化も原因のひとつだったと言えるだろう。

長物、ハンドガンともにブローバック機構を備えた製品の登場で、ガスガンがますます盛り上がって行く中、いよいよ1990年代が幕を開ける。新たなる革命は、すぐそこまで迫っていた。


資料協力:マルシン工業、東京マルイ、MACジャパン

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小林太三 (こばやし たぞう) 出二夢カズヤ (でにむ かずや)

1965年6月、埼玉県生まれ。物心ついた時からの鉄砲好き。高校時代に月刊コンバットマガジンの初代編集長と知り合ったのをきっかけに、1985年に比出無カズヤとして、同誌にてライターデビュー。以来1990年代初頭まで、トイガン業界の裏と表を渡り歩く。
一時的な引退の後、2012年に業界復帰。約5年のGunsmith BATON在籍を経て、現在は八王子Easy SHOOOOOTING! 勤務。自称日本一のUZIフリーク。

ブログ UZI SIX MILLIMETER
http://uzi9mm.militaryblog.jp/



2018/05/22

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