ヒゲKOBA 回顧録 パート5
本記事はGunマガジン2014年9月号に掲載された第23回の転載です。
なお、記事中の法令解説等は執筆者の個人的見解に基づくものであり、その正確性は保証されません。

ヒゲKOBA 回顧録 トイガン規制 パート5

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文・イラスト/小林太三

『ちょっと目に余るトイガンのネットサイト』

本来ならば、銃刀法や総理府令とモデルガンやエアガンの材質や工法に係わる話は、前回で終わるはずだったのだが、最近モデルガンやエアガンに係わる法律を身勝手に解釈した違法トイガンや規制以前のモデルガン、規制以前に製作されたパーツを、堂々とインターネットサイトに、売買目的で掲載するケースが増加している。また、「プラスチック製モデルガンには銃刀法や総理府令が適用されないから、銃身が抜けていても違法ではない」と勝手に解釈し、モデルガンの銃身インサートを削り取って銃刀法違反に問われた事例が増えているという話を、イベント会場で、ある所轄署の担当官から聞かされた。

こんな事例が増えると、更なるトイガンへの法規制強化を誘発しかねず、トイガンの将来を危うくしかねない。これ等の事例が、なぜ法律違反なのかということを、再度書いておこうと思う。

毎年各地で開催されるイベントでは、タニオ・コバのブースに毎回沢山のモデルガンマニアの皆さんが来てくれて、いつも楽しくモデルガントークをさせてもらっている。この種のトイガンイベントは、業界著名人によるタクティカル・ショーを始め、私達のようなモデルガン・メーカーがイベント用カスタムを持って参加する他に、ガレージキットを売るカスタムビルダーや、自分で作ったレアな一点物を売り、そのお金でまた他のドナーベースを仕入れてゆくアドバンスドマニアも多く、楽しいおなじみのイベントの一つとなっている。

しかしこれ等のイベントでは、主催者側から“節度を持ったトイガンマナーを守るよう”に指導がなされているのだが、中にはつい行過ぎた物を持ち込むことがないようにと、会場の主催者が注意している他、地区警察の生活安全課の担当官も、それとはなく目立たないように一般来場者にまぎれてチェックをしているようだ。

しかし2か月ほど前、私はイベントの主催者から都内警察署の銃器担当官を紹介され、「古いモデルガンの製造当時の業界の安全基準と、それに関する意見を聞かせてほしい」との要請があり、後日、最近のインターネットサイトに登場する古いモデルガンやパーツの、製造当時の業界の安全基準についての技術的な見解を求められたことがあった。

今までもイベント会場で警察関係の担当官が一般の来場者として、そっとチェックしていることは知っていた。しかし今回は正面きって「協力してほしい」という申し入れであった。

これがきっかけで、私もインターネットオークションやプライベートサイトのトイガンパーツ売買を、自分の探し物以外の目から見るようになった。

するとどうだろう。平成15年以降、“金属製模擬銃器同様の扱いとなっているガスブローバック拳銃用の黒いメタルボディー”に始まり、フロン用リキッドチャージマガジンにCO2ガスをダイレクトチャージして、構造的に見ても、間違いなくGBBエアガンを“違法な準空気銃”にしてしまうであろうカプラーパーツも散見されるではないか。

その他、昭和52年規制以前の基準で作られたとしか考えられない金属モデルガンの主要パーツ類も平然とインターネットオークションに出されている。タニオ・コバのスタッフに聞いてみると、「結構前から出ているようです」という返事だった。

そればかりか、銃器類の撃発機構に直接係わる部品であるハンマーを、“実銃用ハンマー”と称して堂々と売る状況に至っては、この場合には、もう完全に“実銃部品の販売”にあたる。
したがってこれは、モデルガンの常識の範囲を逸脱している銃刀法違反行為だとしか言いようがない状況なのだ。

オークションサイトの出品物
オークションサイトの出品物のチェック体制を問う前に、こんなものを売る業界が私達のトイガン業界の実態を恥るべきだろう。これじゃあ、悲しいけれど、ギチギチに法律で縛ってもらうか、自滅するかしかなくなってしまう。

警察からは、「今オークションに出ているモデルガンの出品番号を送るから、その出品物の画像で判断できる限りの参考意見を聞かせて欲しい」との依頼もあった。

送られてきたそのサイトの出品者は、どうやら、合法的にカスタム・モデルガンを楽しむ、プロ・アマ仲間にも知られている人間らしい?

この出品者は、数年前のカスタムコンクールの入賞者で、通称○○○と呼ばれる常連メンバーと思しき人物のようだったので、思わず私は唖然としてしまった。
本人は銃身にインサートが入っていれば、実銃パーツをモデルガンの機関部に組み込んでも問題無しと考えたのだろう。

しかし過去に、プラスチック製のモデルガンであっても、インサートを取り除いたモデルガンに実銃の撃発機構の部品を組み込んだ物が、科警研から“殺傷威力を有する金属弾丸を発射可能な改造銃”と鑑定され、銃刀法違反に問われた前例がある。いたずらに実銃パーツを装着して、一見違法けん銃と見間違えられるようなことは、トイガンの将来を危うくさせないためにも、自重して欲しい。

毎度繰り返しになるが、モデルガンは昭和52年に法律的で“模擬銃器”、エアガンは“玩具空気銃”と定義つけられている。

模擬とか模型かいう類のものとは、実物と同様の形態を持っていても、それの本来機能は持たない模擬物を意味するものをいう。

だからモデルガンのモデルとは、実弾を発射し得ない銃器の模型であることは、今更いうまでもないのだが、この本来の意味から考えると、グリップのような、機能に無関係な部品はともかく、本来機能にかかわる実銃部品は、模型には使うべきではないと思うし、法律的にも問題があるようだ。という現状から、最近は警察庁や警視庁の銃器担当部署が、ネット販売やオークションサイトの調査をしているのだという。

『リアル感とリアルサイズ』

モデルガンの創成期には、一見してリアルな外観であればそれで良しとされていた。が、モデルガンが進化するにつれてマニアの要求も向上し、実物グリップを付けて悦に浸るようになり、次第にモデルガンの各部分は実銃のそれと寸分違わぬ形や細かい特徴が要求されるようになっていった。

そして、ハンマーやセーフティ、サイトといった各部品のリアルな特徴が要求されるようになってゆくのは、模型としての自然な成り行きであった。しかしその頃から、カスタムショップの製品がエスカレートしていったのも事実だ。

この当時モデルガンの製品開発をやっていたのは、MGCで働いていた私と、フリーで各社のプロト製作をしていた六人部さんと御子柴さん。

六人部さんと御子柴さんは、可能な限りの実物からの採寸を基本としていたために、その構造や部品形状がとてもリアルで、模型的要素を重視する“模型派マニア”に喜ばれた。

一方私は、実物とは作動原理の異なる、“空砲作動”を重視するブローバック派のためのアクション・モデルガンを目指していたため、必然的に、その内部構造は実銃とは異なるものであった。

また当時のMGCの経営方針として、“外形はリアルでも、極力実銃部品は装着できないようする設計”であったため、スライド&フレーム、ハンマー、トリガー、シア、バレルといった機能部品は、その外形はリアルにしても、内部形状は材質的条件を加味した、実銃とは異なるサイズにしていたのだった。

モデルガンのリアル感
モデルガンのリアル感って、ノギスで計測しないと理解できないのかなぁ? じゃあ形やスタイルは? ブローバックアクションはどうなの?

しかしそのお返しに、細部のディテールや特徴の再現やムード表現には、過去のインダストリアルデザインの経験が、とても役に立ったと思っている。

このため、リアル派マニアからは「内部はリアルではないが作動は良好!」との評価を受けていたのだが、私が作るブローバック・モデルガンは、ノギスで感じるものではなく、アクションして感じる疑似体験模型だと信じていたため、自分にとってはその評価は嬉しかった。

つまり模型とは、実物の交換部品ではないのだから、寸法表現より、形状表現を大事にするべきだと思っているし、その辺が、たとえ原寸大の模型であっても、他のスケールダウン模型との違いはあるにせよ、その模型的本質は同じはずだと信じている。

最近あった悲しい出来事、
モデルガンのバレル・インサートを抜いてしまったら??

今年の春のモデルガンイベントの直後、また別の警察署の銃器対策室の刑事さんから「ちょっと小林さんに見てもらいたいモデルガンの銃身があるので、お邪魔したい」という電話がかかってきた。

法律的には、「発射された弾丸に殺傷能力があれば、1発発射後にその銃が破裂して射手が死んでも、その銃と射手の銃刀法違反は成立し、その銃弾が容易に入手可能か否かについては無関係」という判断が過去より定着していることを、忘れないで欲しい。

この法律の判断には矛盾があると思われるだろうが、それが現実であり、法を犯した者への厳しい社会判断なのだということも、知っておいて欲しい。

また今の銃刀法には「金属製……」ではなく「金属性……」と書かれていることも。

おそらく「総理府令は金属用の法律で、プラスチック製モデルガンは対象外だからインサートなんか要らないんだ」と誤解しているトイガンマニアもいるようだ。

しかし材質が何であれ、ハンマー等の撃発機能がある以上、殺傷力を持つ弾丸を発射可能な銃身を持っていれば、それはレッキとした銃砲なのだということを知らない人が多いようだ。でも、プラスチックなら貫通した銃身でもオーケーなんて、法律にはどこにもそんなことは書かれていないのだ。要は「容易な改造で相当の威力を有する弾丸を発射できるか否か」ということがすべての判断基準なのだ。

担当官の話では、どうやら今年検挙された者の家に、バレルからインサートを抜いてしまってある“改造プラスチック・モデルガン”1挺と数本のバレルがあったとの話だった。そしてその者は「簡単な工夫で内部のインサートはスルリと抜けた」と供述しているそうだが、現物を観察した私の判断は違っていた。

自主安全基準
業界団体では、プラスチックモデルガンのバレルに関する自主安全基準が決められて、このステンレス板を抜き出そうとすると、周囲のバレルが破壊される構造となっているのだが、これ以上の方法によって銃身を抜くことが横行するとなると、金属銃身のように銃身を塞ぐしかその安全策はなくなるのだぜ。みなさんはそれでも良いのかな?

業界団体のプラスチック・モデルガンのバレル・インサートの安全基準は、プラスチック・モデルガンの銃身に対して所定の寸法が決められ、インサートはステンレスまたはリボン鋼材で作られ、その両側は、抜き取ると周囲のバレルの外周が破れてしまうようにジグザグに折り曲げられた形状に指定されている。

常温でインサートを取り出すと、バレルは破れてしまい、プラスチック部分からインサートに熱を加えて引き抜こうとすると、その熱でプラスチックの外筒部分は変形して使い物にならなくなるように、安全基準で詳細に規定されている。

ところが提示されたプラスチック製のバレルの内面を内視鏡で観察すると、外側がまったく変形することなく、ステンレス製のインサート板が取り除かれていて、片側の内面には明らかにジグザグに折り曲げられたインサート板の形状がはっきりと残っていた。

そしてもう片方の内側は、折り曲げ部分が内部に残っていて、内面に残っている部分も削り取られている形状だった。

ということは、「ステンレス板が削れるような硬くて細い特殊なヤスリを使い、かなりの長時間をかけて丹念にインサートの中央を削り落としてから、残ったヘリを抜き取った……」と、私は判断した。

これを聞いた担当官は「ヤツは嘘をついたのか!」と言って帰り、後日、「コバさんの言う通りでしたよ。
お陰で正しい供述が取れました」と、喜んでくれた。
そしてそのインサートは、本人が仕事の休日を使い、半年がかりで削ったそうで、中には失敗した物や、途中で断念した物も混ざり、使えなくなった物等もあったと言う。

この本人は60代の“レッキとしたオッサン”で、インサートを抜いたバレルのモデルガンで何かを撃つ目的ではなく、ただ、“ズバヌケバレル”が欲しかっただけのようだ。でも嘘の加工法方を信じていた担当官は、私の見解を聞くと、初めは「ウソツキヤロウが!」と怒っていたが、最後の訪問の際には「麻薬と鉄砲は厳罰なんだから、俺より年上のいい年したオヤジが、あんなことやっちゃダメだよ!」と言ったと、ちょっと優しい目をされていた。しかし法の判断は厳しい。

また今回のインサートを削った作業については本人も、特殊で高価な超鋼製のやすりを入手し、これを何本も使い、何か月も掛けて削ったということで、“少許の加工の範囲を超えた加工”と判断がなされるようで、今回は製造したメーカーが業界の自主安全基準を守っている以上、その製造責任については不問となるでしょうということだった。

と言うことは、言い換えれば、「いくら好きとはいえ、やり過ぎて法律を犯すと、プラスチックといえども容赦はしないゾ。そして同時にメーカーも、しっかりと“業界の安全基準”を遵守して作って欲しい。そうでないと困るのはドッチ?」ということになるようだ。

『あの頃はモデルガンもバブル期だった』

小学生のときの掃除当番の経験は皆さんあるでしょう。誰かが責任を持ってお掃除をしないと、一人一人が自主的に身の回りを綺麗に出来ない年頃だから、お掃除当番を決めて率先してお掃除をするのが、小学校のお掃除当番。しかし次第に年長になり、自覚が出来るように成長すると、もうお掃除当番なんて係は不要となる。

私がMGCに入ってモデルガン作りを始めたのが1961年1月のこと。今年で53年。

それ以前から妹尾河童さん達先人がアメリカ製トイガンを趣味の対象物として集めておられたのだから、中田商店から始まった日本のトイガンエイジは、55年以上もの歴史がある。

だから、もうそろそろお掃除当番を決めなくても、各自の自己責任が確立して、模型やオモチャと実物とでは、その本質が異なる趣味の対象物なのだということをよく理解し、モデルガンにとって、やって良いことと、やってはいけないこととの分別が、自然発生しても良い頃だろうと、私は思っている。

1980年代に渋谷の宮益坂にMGCの渋谷店が出来た頃、背中に当時の新製品のM16をガンケースなしでそのまま背負い、国道246をチャリンコでMGCの店まで走って来る中学生がいても、路上で警官にとがめられることなかった。

フジTVのスタジオ風景
MGC ビジェールで紹介されていた当時のフジTVのスタジオ風景。モデルガンマニアでなくとも,当時はけっこう自然にモデルガンが一般社会になじんでいた良い時代だった。

だからあの頃には、こんなスタイルの中学生を銃刀法違反で補導したという話は聞いたことがなかったほどモデルガンが社会認知されていて、夜のヒットスタジオやひょうきん族等の人気TV番組にも、出演者がモデルガンを持って登場したりしていた。私も当時のニューモデルをTVスタジオに持ち込み、面白がっていた。

そして石原プロの西部警察シリーズは、派手なカースタントとガン・アクションで一種の社会現象とまで言われるほどのTVポリス・アクションとなり、TVドラマシリーズ最高のロングヒットだった。

当時の日本はまだバブル期で、余裕を謳歌していたせいか、モデルガンを悪用する事件もほとんどなく、モデルガンが最も広く一般社会に好意を持って認知されていた良い時代だった。

しかし最近ではどうだろう。「パンパン!」というキャップ火薬の発火音を聞いただけで110番通報をされてしまったり、「バッグに拳銃らしい物を入れている不審者がいる」と通報されて、パトカーに囲まれたモデルガンマニアがいたりで、モデルガンが誕生して以来、最も怪しまれ、銃の形をしている物すべてが、違法銃のように世間から嫌がられてしまっている時代のように感じるのは、私だけではないようだが、なぜなのだろう?

『番外編なんて書きたくなかった』

今は、法律で認められた威力範囲の、とてもリアルで精巧なあらゆるタイプのエアガンが有り余っている時代。弾を飛ばしたい派には、以前には想像もつかなかったこの上もない恵まれた時代。それなのに、最近の日本のTV番組は、江戸川乱歩的推理ミステリーが主流となり、どんどんプロップ・ガンの出番も少なくなってしまっている。

その一方で、なぜ最近はまたモデルガンの違法改造が増加するのか、私は理解に苦しむ。

そこでこれ等の違反事例を調べてみると、エアガンがなかった昔のように「弾丸発射が目的」ではなかったようで、「ただ、インサートのない銃口が欲しかった!」という、それだけの理由で、まさに異常としか言えないような労力と特殊な工具を捜し求めて、プラスチック・モデルガンの安全生命といえる銃身インサートを抜いた事例がほとんどだ。それなら、なぜ初めから銃口は開いているが中央部分が塞がれた無発火モデルを買わないのか? ブローバックモデルガンを作るメーカーにとっては、これほど迷惑なことはない。

そしてそんな違法行為が続けば、さらに規制が強化されて、その結果モデルガン全てが社会の違法物扱いを受けるようになり、これを愛好するモデルガンマニア全体が、今よりもっと社会の異端者としての扱いを受けるようになることだろう。

私は今年で78歳。だから私の職業生命はあと数年だろう。したがってこれからのモデルガンの世界を成長させ、社会認知してもらえる趣味に出来るかどうかは、皆さんが今後どのようにモデルガンと係わってゆくのかによって、決まってくるだろう。

そしてトイガンの世界もとっくに50歳を過ぎたのだから、そろそろ業界のお掃除当番を選ばなくても、各自が身辺をきれいにしておく努力と自覚を持ち、大手を振って「大人の趣味です」と言い切れる趣味の世界に成長させてくれることを、心から願う次第なのだ〜〜。

今回で5回も重ねてしまったこんな気の重い話を書くことには、心底嫌になったので、今後業界に更なる変化が起きようとも、もうこの続きはなしにしたい。
次回からは、規制によって派生したプラスチック・モデルガン誕生の話をしようと思う。

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小林太三 (こばやし たぞう) 小林太三 (こばやし たぞう)
元MGC副社長、現(有)タニオ・コバ社長。
1936年生まれ。海外にもその名を轟かせるトイガンデザイナー。少年時代の模型趣味からモデルガンメーカーMGC入社。様々な人気モデルガン、エアガンの設計を手掛けたトイガン界の重鎮。

2015/05/08

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